医療ICTとは?チームでの活用事例とメリット、導入の注意点を解説
著者: そだねー
更新日:2024/08/16
公開日:2024/08/16
各業界でICT化が加速する中、医療分野でも導入・活用が進められています。具体的に医療分野で活用されるICTにはどんな種類があり、導入によってどんなメリットがあるのでしょうか。今回は、医療ICTの現状と課題、導入を進めるメリットや事例をご紹介。ICT活用の注意点も解説しますので、ぜひ最後までチェックしてください。
目次
医療ICTとは?
医療ICTの定義やITとの違いなど、基礎的な内容について解説します。
ICTの定義
ICTは「Information and Communication Technology」を略した単語で、「情報通信技術」を意味します。現在では日常的に使われるようになったSNSやインターネット通販なども、ICTの一種です。情報の収集・処理・伝達技術全般を含むと考えるとよいでしょう。
ICTの発達によって、情報の迅速な共有や効率的なコミュニケーションができるようになりました。医療分野でICTを活用することは、診療の質の向上や業務効率化に大きな役割を果たしています。
ICTとITの違い
ITは、PCやスマートフォン等のハードウェアやアプリケーションなどのソフトウェアといった「情報技術」そのものを意味します。対してICTは、さまざまな情報技術を用いて「コミュニケーションをとること」に軸を置いた概念です。
意味が似ているイメージのある単語ですが、ICTは「ITをどう活用するか」に焦点を当てていると考えるとよいでしょう。医療用ICTではITを用いて、いかに患者さんにとって価値を出すかを考えています。
医療のICT化が必要とされる理由
医療業界では、医師や看護師などの医療スタッフの人手不足や1人にかかる業務の負担増加、医療費の増大が問題となっています。現状ある問題に立ち向かうため、業務の効率化が求められており、医療分野でのICT化を進める動きが加速。今後、さらに電子カルテや業務改善ソフトを活用して、医療現場の効率化を進めていく必要があるでしょう。
また、遠隔診療はICT化が進められていく中で、現実的な診療になりつつあります。ICT化を進めることで、価値を生み出せるものが医療業界には多くあるといえるでしょう。
医療ICTの現状と課題
年度 | 一般病院(※1) | 病床規模別 | 一般診療所(※2) | ||
---|---|---|---|---|---|
400床以上 | 200~399床 | 200床未満 | |||
平成20年 | 14.2% | 38.8% | 22.7% | 8.9% | 14.7% |
平成23年(※3) | 21.9% | 57.3% | 33.4% | 14.4% | 21.2% |
平成26年 | 34.2% | 77.5% | 50.9% | 24.4% | 35.0% |
平成29年 | 46.7% | 85.4% | 64.9% | 37.0% | 41.6% |
令和2年 | 57.2% | 91.2% | 74.8% | 48.8% | 49.9% |
※1:一般病院とは、病院のうち、精神科病床のみを有する病院および結核病床のみを有する病院を除いたものをいう。
※2:一般診療所とは、診療所のうち歯科医業のみを行う診療所を除いたものをいう。
※3:平成23年は、宮城県の石巻医療圏、気仙沼医療圏および福島県の全域を除いた数値である。
医療分野におけるICT化は他分野と比べて約5年遅れているとされ、普及率は十分とはいえない状況です。理由として、開業医の高齢化やICTへの理解の不足が挙げられます。
とくに電子カルテの普及率は病院規模による差が激しく、病床数の多い大規模病院は高いものの、200床未満の小規模病院では半分にも満たないのが現状です。
また、オンライン診療は感染症対策を契機に普及が急加速し、制度面での整備も進み始めています。一方で、地域医療情報連携ネットワークのような病院間の情報連携は、まだあまり活用されていません。
このように医療ICTの現状はまだ発展途上ですが、確実にサービスの需要はあるため、今後伸びしろが大きい分野といえるでしょう。
医療ICTの導入による4つのメリット
医療ICTを導入することにより享受できる4つのメリットについて紹介します。
業務効率化を図れる
人手不足が問題となって久しい医療業界ですが、電子カルテシステムの活用により情報の検索や共有が迅速に行えるようになるでしょう。効率よく業務が進められ、医療スタッフにかかる負担の軽減も図れます。患者さんのデータを一元管理することで、重複検査の防止やミスの減少も期待できるでしょう。
また、診療や治療のスピードが向上することは、患者さんへの対応時間の短縮にもつながり、医療スタッフ、患者さんどちらにもメリットがあります。業務効率化が進めば、医療経営のコスト削減も期待できるでしょう。
新たな技術や薬の開発につながる
医療のICT化を進めることでデジタルデータの蓄積・解析ができるようになり、個別化医療の実現が大きく期待されています。大規模なデータ解析によって、これまで以上に疾患の予測や予防に役立つ情報が得られるでしょう。
医師や薬剤師の経験や知識をサポートするような莫大なデジタルデータにより、より効果的な治療法や薬の開発が促進されています。
遠隔医療が実現する
医療分野でのICT導入が進むと、インターネットを介した診療や相談ができるようになり、患者さんは自宅にいながら専門医の診察を受けられます。通院の負担を軽減できるため、高齢の方や移動困難な患者さんにとって大きなメリットがあるでしょう。
また、医療業界では地域ごとの医療格差は長年大きな問題となっていました。ICT化によって遠隔医療が普及すれば、地域の医療格差を是正する手段として非常に有効的です。
地域医療を充実させられる
医療ICTが進むと、医療情報の共有や連携が容易になり、地域の医療機関同士が協力しやすくなるでしょう。地域医療情報連携ネットワークが構築されれば、患者さんの移動や紹介もスムーズに行えます。
結果、地域全体での医療サービスの質が向上し、患者さんの満足度も高まることが期待できるでしょう。
具体的な医療ICTの導入事例4選
医療ICTの導入事例を4つ、紹介します。
電子カルテシステム
電子カルテシステムとは、名前の通り紙のカルテをデジタル化したデータ。医療ICTの代表的な事例であり、情報の管理や共有を簡単にできるようにしたものです。医療スタッフは患者さんの診療履歴や検査結果を迅速に確認でき、データを探す手間が省けます。手書きのミスを減らすこともでき、患者さんに提供する医療の安全性も高まるでしょう。
さらに、電子カルテの導入が進めば、他の医療機関ともリアルタイムで容易に情報を共有できるようになります。複数の医療機関に通院している患者さんの場合でも、検査や処方の重複やトラブル防止につながるでしょう。
遠隔診療の実施
遠隔診療は、インターネットやビデオチャットなどを用いて、医療機関ではない場所にいてもオンライン上で診察を行えるシステムです。遠隔診療を活用すれば、自宅からでも医師の診察を受けられます。
自宅から医療機関への移動が困難な患者さんや、特異な病気で住んでいる地域に専門医が少ないなど、さまざまな問題に地理的な制約を超えて対処できるでしょう。感染症流行時にも有効で、外出による感染リスクの低減が期待できます。
電子版お薬手帳の運用
電子版お薬手帳は、患者さんの服薬情報をデジタル化して、スマートフォンなどのアプリ上で管理できるシステムです。医師や薬剤師はデジタル化された情報をもとに薬の処方履歴を確認し、薬剤の重複や相互作用によるリスクの低減に役立てられます。服薬情報の管理がしやすいため、より適切な薬の処方が行いやすくなるでしょう。
また、患者さん本人も自分の服薬履歴を簡単に確認でき、通院する際に忘れずにお薬手帳を準備する、という手間が省けます。
地域医療情報連携ネットワークの構築
地域医療情報連携ネットワークは、地域の医療機関や介護・福祉施設などで電子的に患者さんの情報を共有し、サービス提供に役立てるシステムです。
地域医療情報連携ネットワークの構築が進むと、異なる病院や診療所を受診する際も診療情報がスムーズに引き継がれます。患者さん側にも大きなメリットがありますが、医療機関側も検査を重複することなく、効率的かつ適切な診察が可能となるでしょう。
また、救急医療の現場では、患者さんの既往歴やアレルギー情報が即座に確認でき、素早い対応ができるようになります。地域全体の医療の質を向上し、患者さんの満足度向上にも役立つシステムです。
医療ICTの導入までのフロー
1.現状の問題点の洗い出し・計画立案をする
2.ICTを用いた解決方法の種類を選定する
3.ICTの導入スケジュールを立てて実施する
4.各種システムのデータ移行とシステム構築を行う
5.スタッフへの教育とトレーニングを行う
医療分野においてICTを導入する際には、まずニーズの把握から始めましょう。ICT導入の目的や期待できる効果は何であるかを明確化し、導入に向けた計画を立てます。
次に、数あるサービスの中から適切なICTを選定。自院の課題や状況に合う製品やサービスを比較検討します。
ICTの導入には時間がかかるため、具体的な導入計画を策定し、スケジュールや役割分担を明確化して実施するのがおすすめです。既存データがある場合には、その移行と新システムの構築を進めていきますが、とくにセキュリティ対策には注意を払いましょう。
また、導入したICTを実際に使う医療スタッフに対して教育とトレーニングを実施し、導入後もモニタリングと改善を継続します。
医療にICTを導入する際の4つの注意点
医療ICTを導入する際に知っておきたい4つの注意点について紹介します。
高いレベルのセキュリティ対策をする
医療情報は非常にセンシティブなデータであり、高度なセキュリティ対策が必要不可欠です。ICT導入によって万が一にも情報漏洩が起こらないよう、データの暗号化や強固な認証システムの活用、定期的なセキュリティ監査を行いましょう。
また、最新の脅威に対応するため、常にシステムのセキュリティ対策を見直す必要もあります。最新のセキュリティ技術を導入し、最新の状態を維持するよう継続的な対応が求められるでしょう。
個人情報を保護するルールを設ける
患者さんの個人情報保護は、医療ICT導入における最優先事項です。個人情報を守るためにはシステムのセキュリティだけでなく、スタッフが運用ルールを徹底することも重要。個人情報の取り扱いに関する明確なルールを策定し、全スタッフに周知・徹底させるようにしましょう。
ルールには、アクセス権限の制限やデータの匿名化、情報の持ち出し禁止なども含まれます。個人情報保護に関わる定期的な研修を実施して、スタッフ全員が最新のルールや対策を理解し、運用できるようにしましょう。
システムエラーに備える
ICTは便利な反面、システムに慣れて依存してしまうとシステムが使えなくなったときに医療サービスを提供できなくなってしまう恐れもあります。災害時や停電など万が一に備えて、バックアップシステムの導入や迅速な復旧手順、代替運用の確立が必要です。
また、定期的なシステムメンテナンスやエラー発生時の対応マニュアルを整備し、いざというときに備えながらも、エラーが起きないよう対策を行いましょう。
紙運用との並行を検討する
ICTの導入初期段階は、紙運用との並行を検討しましょう。何ごとも導入する際にはトラブルがつきものです。紙媒体とデジタルシステムを併用することで、現場の混乱を最小限にしながらも、スムーズな移行が可能に。システムエラーやトラブル発生時のバックアップとしても機能します。
医療分野でICT化を進める際は、一度にすべてを変える必要はありません。段階的な導入を検討することで現場の負担を軽減し、円滑な運用を実現できます。
医療ICTの現状や今後の動向を知り、業務に役立てましょう
医療分野におけるICT化は、導入が進み始めている一方で他の業界とはやや遅れをとっています。今後、電子カルテや電子版お薬手帳、遠隔診療などの活用がさらに進めば、患者さんに提供するサービスの質が上がるだけでなく、医療スタッフの業務効率化・働きやすさにも貢献するでしょう。医療分野の人材不足が叫ばれる中、医療レベルを維持しながら発展していくために、今後さらなる医療ICTの活用は欠かせません。
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著者プロフィール
そだねー
北国出身。前職はコールセンターの採用を担当し、ソラストに転職後、医療事務採用業務に6年従事している。営業や現場とのパイプを持ち、日々変化し続ける医療事務の情報をキャッチアップすることに強みを持つ。