療育とは|厚生労働省のガイドラインからわかりやすく解説
著者: めんたいパスタ
更新日:2023/12/22
公開日:2021/11/17
保育士は「療育」という言葉を耳にすることも多いでしょう。保育士は障がいのある子どもに接する機会があるだけでなく、療育が必要かもしれない潜在的な子どもがいる可能性もあります。そのため療育の知識と視点を持って、子どもに接することが求められます。今回は療育の目的や役割など、療育に関する基礎的なポイントを詳しく解説します。
目次
療育とは|定義や目的、役割
厚生労働省の「児童発達支援ガイドライン」では、療育について以下のように定義しています。
児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である。
療育は「発達支援」ともいわれ、障がいのある子どもを支援することです。もとは身体障がいのある子どもに対する支援とされていましたが、現在は発達障がいや知的障がいなど、全般的な障がいを持つ子どもに対してアプローチします。
療育の目的
療育の目的は、障がいのある子どもの発達を促し、日常生活や社会生活を円滑に過ごせるようにすることです。将来的に社会的に自立した生活を送れるよう、子どもの障がいの程度や特性に合わせてさまざまな方法で支援します。
児童福祉法では、「心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること」「児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」との規定されているため、子どもの意思を尊重し、本人の最善の利益を考慮して行われなければなりません。
療育は子どもに対するアプローチだけではない
療育は子どもの発達・自立支援と同時に、家族への支援も重視しています。子どもを育てているのは家族。そのため、障がいの特性や段階に応じて「育ち」や「暮らし」を安定させることを基本とした支援を行うことで、子ども本人にも良い影響を与えることが考えられます。
療育を行う際のポイントと種類
子どもの障がいの程度や特性はさまざまであるため、アセスメントを通じて子どもと保護者のニーズや課題を適切に分析することが第1ステップです。ここでは療育のポイントや手法について、厚生労働省のガイドラインも参考に解説します。
療育のポイント
療育によるアプローチ方法は、子どもに応じて異なります。その中でも共通して、以下のポイントに留意しながら具体的な支援を提供することが重要です。
・子どもの生活リズムを大切にし、健康・安全で情緒の安定した生活、自己を十分に発揮できる環境を整える
・1人ひとりの子どもの発達や障害の特性を理解し、発達の過程に応じて個別または集団における活動を通して支援する
・子どもの相互の関係作りや違いを尊重する心を大切にし、集団における活動を効果あるものにする
・子どもが自発的、意欲的に関われるような環境を構成する
・周囲との関わりを深めたり、表現力を高めたりする「遊び」を通し、職員が適切に関わる中で、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにできるようにする
・運動機能や検査上の知的能力にとどまらず、「育つ上での自信や意欲」「発話だけに限定されないコミュニケーション能力の向上」「自己選択、自己決定」等も踏まえながら、子どものできること・得意なことに着目し、それを伸ばす
・1人ひとりの保護者の状況やその意向を理解・受容し、それぞれの親子関係や家庭生活等に配慮しながら、適切に援助する
環境を整えた中で、子どもの成長が促される「遊び」を通して感性や表現力、創造性やコミュニケーション能力、意欲や自己選択・決定力など、さまざまなスキルを身につけます。そのための具体的な支援方法は、子どもの発達程度や障がいの特性に応じて、個別に設定されます。
療育の種類
ひとくちに療育といっても、その手法はさまざまです。以下は、療育で行われる手法の一例です。
応用行動分析学 | 子どもの行動から前後の行動の因果関係を分析し、問題行動の原因を見つけて本人の課題に合ったアプローチ方法を見出す |
---|---|
認知行動療法 | 行動の根底にある気持ちやものの受け取り方、考え方にアプローチして、子どもが自分のストレスに対応できるようにする |
箱庭療法 | 砂の入った箱におもちゃを入れた表現法から心理状態を分析、非言語的な自己表現からコミュニケーションを図る |
SST(Social Skills Training) | 日常的に起こりそうな場面をロールプレイングし、自分の気持ちを伝えたり相手の話を聞く訓練をして、対人関係を円滑にするスキルを身につける |
TEACCH | 「時計の針が12時になったら終わり」など、情報を構造化することで視覚的に物事を捉える |
上記例の他にも、食事療法や作業療法、音楽療法などさまざまな手法があるため、その中から子どもの状態に合わせた手法を取り入れます。
療育を行う施設|保育園との役割の違い
ここでは療育を行う施設や、保育園との違いをみていきます。
療育を行う施設
福祉型 | 医療型 | |
---|---|---|
通所型 | 児童発達支援 | 医療型児童発達支援 |
放課後等デイサービス | ||
保育所等訪問支援 | ||
入所型 | 福祉型障害児入所施設 | 医療型障害児入所施設 |
代表的なのは通所型と入所型です。上記以外に、訪問型の「居宅訪問型児童発達支援」「保育所等訪問支援」もあります。居宅訪問型児童発達支援は、重度の障がいなどにより外出が困難な子どもが利用できる療育です。一方保育所等訪問支援は、保育所や乳児院、児童養護施設などで健常児との集団生活に適応できるよう、専門的な支援が提供されます。
療育施設は、児童相談所や保健センター、医師などから療育が必要と認められることで利用可能です。施設には医師や保育士、理学療法士や言語聴覚士、介護福祉士など、専門的なスタッフが配置されています。
保育園との違い
【保育園と療育施設の違い】 | |
---|---|
種類 | 違い |
保育園 | 年齢によるクラス分け |
療育施設 | 発達段階や障がい特性に応じたクラス分け |
保育園は年齢でクラス分けされますが、療育施設では発達の程度や障がいの特性などに応じてクラス分けされます。また保育園では保育士を中心に子どもの世話をしますが、療育施設では保育士のほか作業療法士や児童指導員などの専門スタッフも加わる点が大きな違いです。
療育が必要な子どもへの接し方
療育は療育施設だけで行われるものではなく、一般的な保育園や幼稚園にも潜在的に療育を必要とする子どもがいるケースもあります。そのため保育士をはじめ、子どもの教育立場にある人は療育の知識や視点を持つことが大切です。以下は療育の上で大切な、子どもへの接し方です。
・褒める
・子どもの気持ちに寄り添って話を聞く
・共感する
・脅したり、威圧的に接したりしない
・ポジティブな言葉掛けをし、希望や意欲を持たせる
子どもにストレスやネガティブな感情を与えず、自己肯定感や意欲を上げるよう接することが大切です。否定的な内容や叱らなければいけない場でも、まずは肯定的な言い回しに変換することを意識してみてください。子ども自身も自分が周りと違う違和感や、できないことに対するストレスを感じているはずです。子どもが自信を持って成長できるようにも、まずは身近な立場にある教育者や保護者が子どもを受け入れて味方でいること、支えになることが重要です。
療育は障がいのある子どもが健やかかつ自立した生活を送るための支援
療育では障がいのある子どもが社会的に自立して生活できるよう、個人に合わせた支援のもとで能力を身につけることができます。療育が必要な子どもと接する際には、子どもを受け入れ、支える姿勢が重要。本記事を参考に、療育の目的や役割、方法や大切なことを押さえてみてください。
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著者プロフィール
めんたいパスタ
人材紹介業、サービス業、障がい者雇用の分野で採用業務に従事した経験がある女性スタッフ。現在は保育分野の採用担当として、業務を通じて保育園で働くスタッフの負荷軽減になることを目標として活動している。