社会保険診療報酬支払基金とは|どんな団体?レセプト審査の内容や流れは?
著者: そだねー
更新日:2023/12/22
公開日:2022/07/19
医療事務の仕事をしていると、「社会保険診療報酬支払基金」「支払基金」といったワードを耳にすることもあるかと思います。レセプト(診療報酬明細書)のチェックなどの際に必ず出てくるこの「社会保険診療報酬支払基金」とは何なのか、また、その業務内容や審査から支払いまでの流れを中心に解説します。
社会保険診療報酬支払基金とは?
医療機関では患者さんが保険証をみせると、窓口で診療費のおよそ3割を自己負担金として支払うことになりますよね。そして、残りの約7割の費用(診療報酬)を医療機関がどこからもらっているのかというと、それがこの社会保険診療報酬支払基金という団体なのです。
社会保険診療報酬支払基金は、そのように診療報酬の「審査」と「支払」を担う医療保険制度では欠かせない機関。省略して「支払基金」とも言われます。
支払基金では、毎月医療機関が送るレセプトの内容をしっかりと審査。その後、審査を通過したものについての診療報酬を、支払基金が保険者(保険事業の運営主体)へ請求し、その支払われた報酬を支払基金が医療機関へと支払う流れとなっています。
診療報酬の支払いに関して、医療機関と保険者をつなぐ橋渡し的な役割を担う団体です。
社会保険診療報酬支払基金が設立された経緯
支払基金が創立される以前、レセプト審査を担当していたのは保険医指導委員会で、支払い事務は社会保険協会や健康保険組合連合の仕事でした。しかし、業務が二分化することで支払いが遅延し、医療機関へ適切に診療報酬が支払われないことが問題視されるようになります。そこで、昭和23年9月1日、審査と支払を一元化することを目的に創設されたのが社会保険診療報酬支払基金です。設立以来、「適正な審査」と「迅速な支払い」により、医療保険制度を支え続けています。
社会保険診療報酬支払基金の社会的位置づけ
社会保険診療報酬支払基金は、名前や形態から公的機関や特殊法人と思われがちですが、実際は「民間法人」。社会保険診療報酬支払基金法に基づいて設立されたこと、運営が営利目的ではなく、資本金や株式を持たないことなどが大きな特徴です。
国保連合会との違い
社会保険診療報酬支払基金 | 国保連合会 | |
---|---|---|
対象の保険者 | 健康保険組合 全国健康保険協会 |
市町村国保 |
組織体制 | 全国で1組織 各都道府県に支部 |
各都道府県で別々 |
社会保険診療報酬支払基金と国保連合会は、同じく診療報酬の審査及び支払いを行っている機関です。上記のとおり、違いは対象の保険者と組織体制。また、国保連合会が、対象となる保険者の事務を共同で処理したり、被保険者に対して支援を行ったりしている点でも異なります。
医療機関に診療報酬が支払われる流れ
ここでは、診療報酬が支払基金を通じ、どのような流れで各医療機関へ支払われているのかを説明します。
【大まかな流れ】
Step.1 | 医療機関が1か月分の診療のレセプトを支払基金へ送付 |
---|---|
Step.2 | レセプトの内容を支払基金が審査 |
Step.3 | 支払基金が保険者へ該当分の診療報酬を請求 |
Step.4 | 保険者より支払われた診療報酬を、支払基金が医療機関へ支払う |
Step.1 医療機関が1か月分の診察のレセプトを支払基金へ送付
各患者(被保険者)からの支払いは各診療後に行われますが、医療機関は保険者が負担する分の診療代を1か月分まとめて、社会保険診療報酬支払基金に請求します。請求の際に必要な、レセプトには各患者の診療内容や投薬内容を記載。支払基金への提出期限は、診療翌月の10日です。
Step.2 レセプトの内容を支払基金が審査
医療機関から送られてきたレセプトは、支払基金で診療翌月の10日から25日にかけて審査されます。内容に相違があった場合には、訂正または医療機関への差し戻しが行われます。
Step.3 支払基金が保険者へ該当分の診療報酬を請求
レセプトの内容に間違いがない事を確認後、支払基金は各保険者へ診療報酬の請求手続きを行います。診療翌々月の10日までに請求を受けた保険者は、20日に診療報酬を支払基金へ支払います。
Step.4 保険者より支払われた診療報酬を支払基金が医療機関へ支払う
保険者から診療報酬を受け取った支払基金が、診療翌々月の21日に各医療機関に診療報酬を支払います。
社会保険診療報酬支払基金で行われる審査とは
社会保険診療報酬支払基金では、医療機関で個々の診療がきちんと保険診療ルールに則って行われているかどうかを審査しています。
具体的に、保険診療ルールとは「療養担当規則」「診療報酬点数表」「関連通知」のこと。このルールに則り、各項目を審査していきます。
審査項目は4つ
① 記載事項
② 診療行為
③ 医薬品
④ 医療材料
審査は大きく分けて、この4項目に分けられます。
① 記載事項
記載漏れや保険者番号等の内容不備がないかの確認
② 診療行為
診療行為の名称、点数、回数、医学的な適否、算定要件等の確認
③ 医薬品
医薬品の名称、価格、適応、用法、用量、医学的な適否などの確認
④ 医療材料
医療材料の名称、価格、用法、使用量、医学的な適否などの確認
社会保険診療報酬支払基金の審査の流れ
【大まかな流れ】
① コンピュータによるチェック
② 職員による事前確認
③ 審査委員による審査
レセプトは、大きく分けて3段階で審査されます。
レセプトが電子データで送られるようになったことで、コンピュータによる基本的な確認が可能になりました。現在では、コンピュータがまず基本的な事項について確認を行い、最終的に審査委員が注意すべき事項に絞って専門的な知識で判断するという役割分担ができています。この効率化で、「適正な審査」が実現されました。
① コンピュータによるチェック
毎月10日までにレセプトが電子データで送付されると、それをコンピュータがチェック。保険診療ルールに適合しない項目を抽出します。このチェックは毎月12日までに行われます。
② 職員による事前確認
コンピュータがレセプトをチェックしたあと、次に支払基金の職員がレセプトを確認します。事前に保険診療ルールに適合していないと考えられる項目を洗いだすことで、審査委員がより医学的判断を要する審査に時間を使えるようにすることが目的。この確認は、毎月10日から23日前後にかけ行われます。
③ 審査委員による審査
職員の確認で問題となる項目を洗い出したら、最終的に審査委員による審査が行われます。
審査委員会は各都道府県に設置。中立な審査をするため、診療担当代表、保険者代表、学識経験者からなる三者構成になっています。
この審査委員会は、コンピュータでは対応できない「人の判断を必要とする審査」を担います。医療の現場では、投薬の必要性や容量の調整などは、医師の判断のもと実施されています。これらが保険診療に適しているのかどうか、機械では一様に判断できるものではありません。そのため、個々の症例において医師の判断が適切であるかどうか、審査委員会の専門家による判断が必要とされるのです。この審査委員による審査は毎月18日から25日前後に実施されます。
社会保険診療報酬支払基金の在り方の見直し
医療を受ける国民の公平性の確保および負担軽減を目的とし、社会保険診療報酬支払基金の在り方が見直されています。この見直しでは、大きく分けて以下の2つの観点から取り組みが進められています。
・都道府県ごとに置いていた支部制度を終了し、本部へ機能を集約することで、審査結果の不合理な差異を解消する。それにより、審査の平準化・統一化を図る。
・業務効率化を実現することで、審査費用となっている保険料の使用を減らし、国民の負担を軽減につなげる。
このような取り組みの中で、2021年4月に法改正が行われた結果、支部が廃止され、審査事務局が設置されました。また、2022年4月以降、実務の見直しとして、職員によるレセプト事務点検業務を担う審査事務センターを全国10か所程度に設置し、順次事務を集約していきます。
医療機関と保険者をつなぐ「社会保険診療報酬支払基金」
社会保険診療報酬支払基金は、医療保険制度の要ともいえる機関です。医療機関や薬局で医療事務が作成するレセプトは、すべて社会保険診療報酬支払基金によって厳しく審査されます。内容に相違があった場合は診療報酬支払いの遅延にもつながるため、レセプト作成時の入力内容には十分留意しなくてはいけません。
医療機関、健康保険組合、そして支払基金それぞれが適正な業務を行うことで、誰もが安心して医療を受けられる体制を維持していきましょう。
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著者プロフィール
そだねー
北国出身。前職はコールセンターの採用を担当し、ソラストに転職後、医療事務採用業務に6年従事している。営業や現場とのパイプを持ち、日々変化し続ける医療事務の情報をキャッチアップすることに強みを持つ。