医療情報化支援基金とは|オンライン資格確認・電子カルテ導入について
著者: そだねー
更新日:2023/12/22
公開日:2021/11/04
技術革新により、さまざまな分野でのICT化が進んでいます。令和元年には、医療情報化支援基金が新設。医療情報化支援基金とは、簡単にいえば医療分野のICT化を支援するための制度です。今回は医療情報化支援基金について、支援内容や対象事業などを詳しくご紹介します。
医療情報化支援基金とは
医療情報化支援基金とは、令和元年10月1日に施行された地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律の改正の第31条とする新設項目です。簡潔にいえば、医療分野におけるICT化を支援するための補助金制度です。
まずは医療情報化支援基金創設の背景を踏まえ、具体的な内容や今後の流れをみていきます。
医療情報化支援基金創設の背景
高齢化の進展に伴い医療需要が増加すると同時に、高齢者が住み慣れた地域で医療サービスを受けながら暮らせるよう「地域包括ケアシステム」の構築が求められます。地域包括ケアシステムとは、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムのこと。重度の要介護状態である高齢者をはじめ、すべての人が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられる環境を目指しています。地域包括ケアシステムの構築については、団塊世代が75歳以上となる2025年を目処にさまざまな取り組みが実施されています。
この地域包括ケアシステムの構築の一環として、そして効率的かつ質の高い医療提供体制を構築することを目的に医療情報化支援基金が創設しました。医療情報化支援基金では医療分野におけるICT化を支援するため、対象事業に関して補助金を支給します。医療情報化支援基金における予算は令和3年までで計1,068億円と大規模に進められている事業であることがうかがえます。
医療情報化支援基金の対象事業
医療情報化支援基金の対象事業となるのは、以下2つの項目です。
①オンライン資格確認の導入に向けた医療機関・薬局のシステム整備の支援
②電子カルテの標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入の支援
オンライン資格確認、電子カルテ導入の普及における初期導入経費を補助します。支援スキームについては、消費税財源を活用。オンライン資格確認や電子カルテの導入が業務効率の一環としても推進されることから、給付窓口は社会保険診療報酬支払基金となります。そのため補助金の申請にあたって、医療機関は社会保険診療報酬支払基金に申請します。
医療情報化支援基金の事業スケジュール
オンライン資格確認導入については、令和5年(2023年度)3月末で概ね全ての医療機関での導入完了を目標としています。そして、電子カルテ標準化に係る補助については令和3年度(2021年度)9月までは申請・交付内容の検討・準備段階、10〜12月に交付要項の決定・提示を予定しています。オンライン資格確認導入については内容が明確化している一方、電子カルテの標準化については技術側面と制度的側面の2段階で検討する必要があることから要件がまだ明確化していません。そのため、電子カルテシステムの導入の具体的な補助内容は今後の続報をチェックする段階にあります。
オンライン資格確認に関する医療情報化支援基金について
マイナンバーカードの運用が平成28年に開始して以降、社会保険や税金の申請・手続き・管理などにマイナンバーが用いられていますが、医療分野における活用は未だ進んでいません。令和3年3月からは一部の医療機関や薬局の窓口でマイナンバーカードを保険証として利用できるようになっており、今後利用できる医療機関・薬局を順次拡大していく予定です。マイナンバーカードをベースに保険資格をはじめ、診療情報などを記録するには、オンライン確認資格のシステム整備が必要です。
オンライン資格確認の導入のメリット
医療機関や薬局で患者の加入している医療保険を確認する作業を、資格確認といいます。つまりオンライン資格確認とは、患者の医療保険の確認作業をオンラインで実行することです。従来の確認方法では、受け取った保険証の情報を1つずつ医療機関システムに入力するため、手間と時間がかかる点が課題でした。オンライン資格確認であれば、マイナンバーのICチップや保険証の記号番号のみで資格情報が確認できるようになり、これまで確認にかかっていた時間が大幅に削減されるのです。このような事務コストの削減のほか、資格の過誤請求の削減、マイナンバーカードでの受診が可能になるといったメリットがあります。
さらに全国民の資格履歴が一元的に管理できるだけでなく、医療機関や薬局システムで管理されている患者情報、検診情報などとも紐づけられるようになるのです。
オンライン資格確認の補助金対象
・資格確認端末関係(厚生労働省が示す仕様書の基準を満たした製品のみ対象)
・顔認証付きカードリーダー関係(既存機器に顔認証機能を付加するための改修費含)
・ネットワーク設定作業等
・院内ネットワーク関連機器(ルーター、LANケーブル、スイチングハブ等)
・電子証明書関係
・レセコン等の既存システムの改修に係るパッケージソフトの購入及び導入
・病院及び診療所にて、薬剤情報及び特定健診情報の閲覧のための電子カルテ等の改修に係る経費
・薬局にて、薬剤情報閲覧のための調剤システム等の改修に係る経費
・保険医療機関等にて、施設職員へのオンライン資格確認等の導入に関する指導に係る経費 など
オンライン資格確認の補助金対象となるのは、上記です。
オンライン資格確認に係る医療情報化支援基金の申請時期や申請方法
オンライン資格確認の導入を令和5年3月31日までに完了させた上で、令和5年6月30日までに申請する必要があります。システムなどの改修後、オンライン資格確認の導入準備完了後に、以下資料を添付して申請します。
・領収書(写)
・領収書内訳書(写)
・オンライン資格確認等事業完了報告書
申請はポータルサイトに上記書類をアップ、または社会保険診療報酬支払基金に郵送する2つの方法があります。補助金は精算払いとなるため準備段階では医療機関側が立て替える必要があり、申請後2〜3ヶ月ほどで補助金が振り込まれます。
電子カルテシステム等導入に関する医療情報化支援基金について
電子カルテの導入については以前からも進められていますが、医療情報化支援基金の趣旨は「国が指定する標準規格を用いた相互に連携可能な電子カルテシステム等の導入に係る支援」です。電子カルテシステムにおける医療情報化支援基金はまだ未確定な部分や課題も残っているため、その点も踏まえてみていきます。
電子カルテの導入状況
一般病院 | 病床規模 400床以上 |
病床規模 200~399床 |
病床規模 200床未満 |
一般診療所 | |
---|---|---|---|---|---|
平成20年 | 14.2% | 38.8% | 22.7% | 8.9% | 14.7% |
平成23年 | 21.9% | 57.3% | 33.4% | 14.4% | 21.2% |
平成26年 | 34.2% | 77.5% | 50.9% | 24.4% | 35.0% |
平成29年 | 46.7% | 85.4% | 64.9% | 37.0% | 41.6% |
最新で統計がでている平成29年までをみても電子カルテの導入率は年々増加しているため、令和3年現在は半数以上が電子カルテを導入しているでしょう。病床規模別にみると電子カルテの導入が進んでいないのは200床未満の中小規模の病院であり、普及のボトルネックであるといえます。
電子カルテの標準化とは
電子カルテの標準化において、国の指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステムを導入することを目的としています。標準化することで施設外での医療データの管理・流通の実現、そして医療現場での意思決定支援の活用による医療の質・安全向上などの実現が目指されます。
保険医療分野の標準規格は、「情報コード」「情報フォーマット」「データ格納方法」「情報交換方式」の4項目が対象です。厚生労働省では4項目から計20規格を決定していますが、その実装を強制するものではないのが現状です。そのため具体的な要件は有識者の意見を踏まえて検討されるとしており、現在は今後の続報を待っている段階です。
なお、令和2年10月21日に公表された資料「電子カルテ等の標準化について」では、検討会のとりまとめを踏まえて以下のような方向性が記されています。
①医療機関間・システム間でのデータ交換にあたり、アプリケーション連携が非常にしやすいHL7 FHIRの規格を用いてAPIで接続する仕組みを実装するものであること
②標準的なコードとして、厚生労働省規格のうち、検査・処方・病名等の必要な標準規格を実装するものであること
また標準化する範囲についても、以下の情報を対象とすることが検討されています。
▼文書
・診療の場面で情報連携が有用な①診療情報提供書、②退院時サマリー(画像含む)、③電子処方箋、④検診結果報告書
▼文書以外のデータ
・感染症、災害、救急等の対応に万全を期すため、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤併用禁忌情報、救急時に有用な検体検査結果等の情報
・生活習慣病関連の情報
▼画像情報
・退院時のサマリー等における画像情報
電子カルテ標準化における課題
医療情報化支援基金は電子カルテの標準化を支援するものとされていますが、ひとくちに電子カルテといってもさまざまな種類があります。そのため具体的にどの電子カルテを導入する時に補助の対象になるのか、現状では明確ではありません。また標準化についても、厚生労働省の認める医療情報のコード体系は17ほどありますが、目標とする運用にそれだけの数で足りるのかも未知です。さらに、電子カルテの相互運用を目標とした電子カルテの標準化という趣旨ではあるものの、医療機関同士が相互の情報を見られるようにすることと、電子カルテの中身の標準化とでは内容が全く異なります。電子カルテの標準化といえど、「電子カルテの中身」「相互運用」「仕組み」のどの点を標準化するかが明確でない点が懸念されています。
医療情報化支援基金は医療分野のICT活用を促進するための制度
医療情報化支援基金の対象事業は、オンライン資格確認の導入と電子カルテ標準化に向けた電子カルテシステムの導入です。オンライン資格確認については内容も明確化しており、申請時期や方法も公表されています。一方、電子カルテについては未確定であり、想定スケジュールでは2021年内に電子カルテ標準化に係る補助の交付要綱が決定・提示される予定です。引き続き医療情報化支援基金の動きをチェックし、できることから進めていきましょう。
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著者プロフィール
そだねー
北国出身。前職はコールセンターの採用を担当し、ソラストに転職後、医療事務採用業務に6年従事している。営業や現場とのパイプを持ち、日々変化し続ける医療事務の情報をキャッチアップすることに強みを持つ。