医療データ利活用とは?メリットや課題、具体的な取り組みを紹介
著者: そだねー
更新日:2023/12/22
公開日:2022/07/07
IT技術が進歩するなか、医療分野においてもICT化による医療データ利活用が進んでいます。医療データ利活用とは具体的にどういうことなのか、どのような点でメリットがあり、そのためにどのような取り組みが行われているのかは気になるポイントでしょう。今回は医療データ利活用について、さまざまな観点から解説します。
目次
医療データ利活用とは
医療データ利活用とは、医療分野におけるICT化のこと。、ビッグデータに基づき病気の予防や適切な治療を提供するためのプラットフォーム構築を目指しています。
医療データ利活用に欠かせない医療ビッグデータ
医療データ利活用で用いられるのは、医療ビッグデータです。そもそもビッグデータとは、その名の通り大量のデータの集まりのこと。ビッグデータというだけあり、その量は膨大かつ多様性のあるものです。近年はIT技術の発展により、膨大なデータをリアルタイムで収集・分析・管理することができるようになりました。さまざまな分野で活用されるビッグデータですが、医療分野においては個人の健康状態や病歴、治療歴などに関する大量のデータのことです。
データヘルス改革における医療データ利活用
厚生労働省では、医療データ利活用による「データヘルス改革」に取り組んでいます。データヘルス改革では、「国民・患者」「現場保険者」「研究者・産業界・行政」が医療データを利活用することで、下記ポイントの実現を目指します。
・全ゲノム情報等を活用して新たな診断、治療法等を開発
・AI導入でサービスの高度化と現場の負担軽減
・国民が自分のスマホ等で健康、医療情報を確認
・医療、介護の現場で患者の過去の医療等情報を確認
・ビッグデータの活用により研究や適切な治療の提供が進む
医療データ利活用によるデータヘルス改革を実現するため、2022年内に全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大や電子処方箋の仕組み構築、自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大を実行するとしています。ワンストップで医療データが利活用できる環境を構築することで、より効率的かつ適切な医療の提供が実現します。
医療データ利活用の一次利用・二次利用
医療データ利活用には、医療機関が患者本人の診断や治療のために医療データを利活用する一次利用と、研究機関や行政、企業などが医療・健康分野の研究や薬の副作用調査、行政による統計作成や政策立案のために医療データを利活用する二次利用があります。一次利用とは取得した本来の目的で、二次利用は本来の目的外で医療データを利活用することです。たとえば地域の医療機関間で患者の診療情報を共有することは一次利用に該当し、収集した医療データを治療法の開発や調査などに活用することは二次利用に該当します。
医療データ利活用のメリット
地域包括ケアシステムの実現
地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを送ることができるように、医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供するプラットフォームのこと。医療データが利活用できれば医療・介護情報の連携が可能となり、いつでも必要な医療・介護を受けられる環境の実現に役立ちます。
医療・介護サービスの質の向上
医療・介護情報が一元管理されていることにより、個々の健康状態や病歴、治療歴を踏まえた上で適切かつ質の高いサービス提供が可能となります。特に介護の現場では介護記録と合わせて医療記録が収集できることで、科学的介護の実現にも役立ちます。さらに膨大な保健医療データを利活用できることは、疾病や要介護状態の早期回避にも有効です。
業務効率の向上
医療データ利活用は、医療現場や製薬会社等の企業、行政などにおける業務効率化にも直結します。たとえば、医療現場であれば、電子カルテによるペーパーレス化による業務効率化、製薬会社であれば開発戦略の企画や知見、研究や薬の副作用調査などで業務効率が向上し、コスト削減を実現できます。
医療データ利活用の課題
医療データ利活用が推進される一方、まだまだ課題も残っています。
医療データ利活用にかかるコスト
データを収集するにあたり、必要なプラットフォームを構築したり、収集したデータを利活用できるよう加工したりするには相応の環境を整える必要があります。その過程でかなりのコストが発生するため、なかなか必要な環境が構築できないといったケースもあるでしょう。かといってコストを抑えてしまうと適切な環境が構築できず、正確なデータが収集できないことで誤った判断を招いてしまうといったリスクも考えられます。
セキュリティの確保
医療データ利活用を進める上で最大の課題となるのは、セキュリティです。医療データのなかには決して漏洩してはならない重大な情報が多く存在します。しかしながら、情報漏洩や改ざんのリスクが決してないわけではありません。医療分野に限らず、データ利活用を進めていく上でセキュリティに関する課題はつきものです。データ収集時や保管時、共有時に漏洩・改ざんされないような強固なセキュリティを構築する必要があります。
データの標準化
医療データには、標準化されていないデータも多く存在します。医療データを各分野で利活用するには、どこでも平等に理解できる標準化された形式が必要です。電子カルテ等の標準化は徐々に進められていますが、完全に全ての分野で標準化するには時間とコストがかかります。
医療データ利活用の具体的な取り組み
ここでは、医療データ利活用のために行われている具体的な2つの取り組みについてご紹介します。
既存データベースの一元化
国民皆保健制度の日本では医療・健康分野に関するデータが膨大に存在しており、それらはNDBやDPCなどの大規模なデータベースにて運用されています。しかしこれらのデータベースは連結されておらず、かつアクセスできる範囲も限定的であるため、期待される医療データ利活用には不十分な環境です。そこで厚生労働省はデータヘルス改革の一環として、これまで分断されていた医療・健康・介護分野のデータベースを一元化した「保険医療データプラットフォーム」の構築を進めています。
個人情報保護法への対応
医療・健康分野における研究開発を促進するには、広範な医療ビッグデータの分析が必要です。しかし、医療情報の利用は「個人情報の保護に関する法律」の制約を受けており、なかなか二次利用が進まない状況にありました。さらに2015年には改正個人情報保護法により、医療情報を第三者に提供する際は事前に患者1人ひとりに対して同意を得る必要があるとされたのです。
このため改正個人情報保護法に対応しつつ、医療情報の二次活用を促進するため「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」が2017年に成立しました。これにより、国の認定を受けた機関であれば医療情報を収集し、匿名化して研究機関等の第三者に提供することが可能となったのです。もちろん情報提供するにあたり、匿名であっても医療情報が第三者提供されることは患者本人に事前に通知され、患者は提供を拒否することもできます。
医療データ利活用はどんどん進む!各分野での動向をチェック
医療データの利活用は、医療・介護・福祉とさまざまな分野で必要とされています。特に医療現場では医療データ利活用の動きも活発化しており、電子カルテへの移行もその一環です。まだまだ課題も多く、発展途上の医療データ利活用ですが、今後さらにその動きは活性化していきます。医療データ利活用に関する動向を引き続きチェックしていきましょう。
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著者プロフィール
そだねー
北国出身。前職はコールセンターの採用を担当し、ソラストに転職後、医療事務採用業務に6年従事している。営業や現場とのパイプを持ち、日々変化し続ける医療事務の情報をキャッチアップすることに強みを持つ。