マラケシュ条約とは?条約の内容や歴史、課題と今後の展望について
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/12/22
公開日:2022/07/03
著作権などに関する国際条約である「マラケシュ条約」をご存知でしょうか。マラケシュ条約は、視覚障害やその他理由で通常の書籍が読めない方にとって重要な役割を持ちます。今回はマラケシュ条約について、どのような目的でどんな内容が制定されているか、マラケシュ条約があることで何が変わるのかを詳しく解説します。
目次
マラケシュ条約とは
マラケシュ条約は、2013年6月27日に採択された著作権などに関する国際条約です。正式名称を「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」と言います。視覚障がい者の方々の著作物の利用機会を促進することを目的に作られました。
マラケシュ条約の内容
マラケシュ条約とは、簡単にいうと、視覚障がい者が障害を理由に本を読む機会が制限されにくくなるような環境を整えるため締結されたものです。世界盲人連合(WBU)によると、出版される書籍のうち視覚障害者の方に必要な点字、録画図書、アクセシブルな電子書籍などの形式で利用できるものは、途上国において1%以下、先進国でも7%ほどと推定されています。障害に対応した書籍がなく多くの読書の機会を奪われているこの状況は「書籍飢餓」と名付けられています。マラケシュ条約はこの書籍飢餓を解消し、障害がある方の書籍利用機会の促進を目指しているのです。
〇視覚障害者等が著作物を利用する機会を促進するため、各国の著作権法において、視覚障害者のために利用しやすい様式の複製物(点字図書、音声読み上げ図書等)に関する著作物の制限は例外を規定する(第4条)
b 〇各国の権限を与えられた機関(点字図書館等)が作成された利用しやすい様式の複製物を国境を超えて交換することを可能とする(第5条)
〇権限を与えられた機関間の情報交換や支援を通じて作成された利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換を促進するための協力を行う(第9条)
マラケシュ条約締結の背景
マラケシュ条約制定の背景には、視覚障がいやその他の理由で通常の書籍が読めない方が利用できる様式の書籍が、一般市場であまり売られていないということがあります。その理由は、出版会社にとって点字や音声による書籍の販売はビジネスとしての利益性が低いから。また、点字図書館などが製作した図書についても、国内の著作権制限に基づき製作されているため、国外に流通させることができませんでした。そこで、視覚障がい者等のために著作権制限・例外の規定のもとアクセシブルな図書を製作できること、そしてそれらを国境を超えて共有することの2つを実現するための国際的な枠組みとしてマラケシュ条約が締結されたのです。
マラケシュ条約の歴史
マラケシュ条約案の交渉が開始されたのは、2009年のこと。条約案を交渉したのは、「知的所有権のサービス、政策、情報、協力のためのグローバルなフォーラム」である国連の専門機関、世界知的所有権機関(WIPO)です。「マラケシュ条約」という名称は、この交渉が2013年6月27日にモロッコ・マラケシュにおいて採択されたことから来ています。なお、条約の効力が発生したのは採択から3年後の2016年9月30日です。
なお、日本では2018年4月25日の国会にてマラケシュ条約が承認されました。同年10月1日に世界知的所有権機関の事務局省へ加入書を寄託。マラケシュ条約の規定に従い、2019年1月1日に日本においてマラケシュ条約の効力が発生しました。
2021年3月末時点でマラケシュ条約を締結しているのは、世界79ヶ国です。
マラケシュ条約があると何が変わる?
ここでは、マラケシュ条約によって生まれる変化について解説します。
視覚障がい者等のために著作権保護に例外が生まれる
本来であれば、書籍の複製は各国の著作権法に違反します。しかしマラケシュ条約を締結していることで各国の著作権保護に例外が生まれ、点字図書や音声読み上げ図書などの視覚障がい者が利用しやすい様式の複製物が作成しやすくなります。
国を超えたアクセシブルな書籍の交換が可能になる
1冊の本を点字化するには、膨大な時間と労力が必要です。そのため、視覚障害者やその他理由で通常の書籍を読めない方が利用できる書籍を作成するには時間もコストも発生し、それだけ書籍に触れる機会を損失していることになります。しかしマラケシュ条約により、点字図書館等の権限を与えられた機関が作成した書籍であれば、国境を超えた複製物の交換が可能です。つまり、マラケシュ条約を締結しているいずれかの国が書籍を作成すれば、締結国内でその複製物を広く流通させることができます。そうすることで視覚障がい者等が利用しやすい様式の書籍作成が効率化され、多くの書籍を利用することができるようになるのです。
マラケシュ条約の課題と展望
マラケシュ条約の意義は、視覚障がいやその他理由で通常書籍が読めない人の書籍利用機会を促進することです。しかしマラケシュ条約が採択されたとしても、多くの国がマラケシュ条約を締結し、利用しやすい様式の書籍作成・複製・交換を実践していかなければ、視覚障がい者たちの書籍飢餓の状況は変わりません。そのため今後は、マラケシュ条約の締結国を増やすこと、そして最終的な書籍不足を解消するために出版社がアクセシブルな書籍を出版することが求められます。なお、日本においては2010年から国内著作権法第37条により、出版社や著作者の許可なしに書籍をアクセシブルな様式にすることが可能となりました。しかし国内書籍のアクセシブル化だけでなく、よりグローバルな観点から視覚障害のある方たちが広く書籍に触れる機会提供のシステム作りが必要といえます。
マラケシュ条約は視覚障がい者の書籍利用機会を増やすための国際条約!
書籍から知識や娯楽を得る権利は、誰しもが平等に持つものです。しかし、視覚障がいやその他理由で通常の書籍が読めない方も多く、その人たちのための書籍は広く流通しているわけではありません。この格差を解消すべく、著作権の制限・例外を認め、国境を超えてアクセシブルな書籍の流通を可能するためにマラケシュ条約が存在しています。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。