福祉・介護業界の離職率は高い?離職率の実態や他業界との比較から解説
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/12/22
公開日:2022/03/10
少子高齢化の日本では、福祉・介護職の需要が今後も上がり続ける状況にあります。その点で福祉・介護職は将来性のある仕事ですが、一方で離職率が高いとのイメージを持っている方も多くいるでしょう。そこで今回は福祉・介護業界の離職率について、その実態や他業界との比較をみていきます。
目次
福祉・介護職の離職率
福祉・介護業界は「人手不足」「業務過多」「身体的負担が大きい」などネガティブなイメージが先行し、離職率が高いと思われています。しかし、具体的な数字や比較を踏まえた実態を把握できている方は多くありません。ここでは、福祉・介護業界の離職率を統計に基づいて解説します。
福祉・介護職の離職率と採用率の実態
結論、福祉・介護業界の離職率はそこまで高くないのが実態です。介護労働安定センター「令和2年度 介護労働実態調査結果」によると、1年間(2019年9月30日〜2020年9月30日)の福祉・介護職の離職率と採用率は以下の通りです。
離職率(%) | 採用率(%) | |
---|---|---|
介護職員 | 14.7 | 16.7 |
訪問介護員 | 15.6 | 15.0 |
サービス提供責任者 | 14.9 | 10.8 |
3職種合計 | 14.9 | 16.0 |
職種によっては離職率が採用率を上回りますが、全体では採用率が離職率を上回ります。そして離職率は2018年で15.4%、2017年で16.2%と横ばいで推移しており、いずれも採用率が離職率を上回っています。
なお、厚生労働省「令和2年度雇用動向調査」による雇用者全体の離職率と入職率は以下の通りです。
離職率(%) | 入職率(%) | |
---|---|---|
2020年 | 14.2 | 13.9 |
2019年 | 15.6 | 16.7 |
全体の離職率と比較するとわかるように、福祉・介護職の離職率が突出して高いわけではなく平均的な割合であることがわかります。
事業所規模別にみる福祉・介護職の離職率
下記は、介護労働安定センター「令和2年度 介護労働実態調査結果」に基づいた介護職員(無期雇用)の事業所規模別にみた離職率です。
事業所の規模別にみると、規模が大きくなるほど離職率が低くなっています。規模の大きい事業所は給料や待遇も安定しており、環境も整っていることが離職率の低さにつながっていると考えられます。
福祉・介護業界と他業界の離職率の比較
福祉・介護業界の離職率がそこまで高くない根拠として、他業界の離職率と比較していきます。下記は、厚生労働省「令和2年度雇用動向調査」に基づいた産業別の離職率です。
宿泊業・飲食サービス業が26.9%と最も高く、生活関連サービス業・娯楽業が18.4%と2番目に高い離職率となります。医療・福祉業界を下回る離職率の業界もありますが、全体的にみても福祉業界の離職率は平均的であり、そこまで高くないことがわかります。
福祉・介護業界の採用が困難な原因
平均的な離職率である福祉・介護業界ですが、それでも人手不足が慢性的な課題となっています。介護労働安定センター「令和2年度 介護労働実態調査結果」によると、人手が不足している理由に以下を挙げています。
理由 | 回答割合 |
---|---|
採用が困難である | 86.6 |
離職率が高い | 18.2 |
事業拡大によって必要人数が増大した | 10.2 |
その他 | 4.2 |
離職率の高さも関係するものの、採用の困難さが圧倒的な人手不足の原因です。なお、採用が困難である原因は以下のような調査結果となっています。
理由 | 回答割合 |
---|---|
他産業に比べて、労働条件が良くない | 53.7 |
同業他社との人材獲得競争が激しい | 53.1 |
景気が良いため、介護業界へ人材が集まらない | 19.1 |
その他 | 19.1 |
わからない | 6.0 |
福祉・介護業界の離職理由
下記は介護労働安定センター「令和2年度 介護労働実態調査結果」による、回答数が多い順にみた上位6つの離職理由です。
離職理由 | |
---|---|
1. | 職場の人間関係に問題があったため |
2. | 結婚・妊娠・出産・育児のため |
3. | 法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため |
4. | 他に良い仕事・職場があったため |
5. | 収入が少なかったため |
6. | 自分の将来の見込みが立たなかったため |
ここでは、上位理由の中からよくある3つの離職理由について詳しくみていきます。
離職理由①職場の人間関係
人間関係を理由にした離職は、福祉・介護業界に限りません。しかし福祉・介護職は対人サービスであり、他職種の職員や多くの高齢者と接する仕事です。そのため、人間関係からは逃げられない環境であり、職員自体がうまく連携できず、コミュニケーションが取れないと良いケアも提供できません。
人間関係が改善されないと、仕事を続けることが難しくなってしまうケースも多くみられます。下記は、職場での人間関係等の悩み、不安、不満等の調査結果です。
職場での人間関係等の悩み、不安、不満等 | 回答割合(%) |
---|---|
自分と合わない上司や同僚がいる | 21.2 |
部下の指導が難しい | 20.3 |
経営層や管理職等の管理能力が低い、業務の指示が不明確、不十分である | 19.5 |
ケアの方法等について意見交換が不十分である | 19.2 |
上司や同僚との仕事上の意思疎通がうまく行かない | 15.9 |
経営層の介護の基本方針、理念が不明確である | 13.2 |
上司や同僚の介護能力が低い | 10.7 |
悩みの相談相手がいない、相談窓口がない | 10.6 |
反対にいえば、人間関係が良好な職場であれば仕事も長く続けられるといえます。実際に上記調査では33.1%が「職場での人間関係について特に悩み、不安、不満等は感じていない」と回答しています。
職場の実際の人間関係は入職しないとわからない点も多いですが、転職前に施設を訪問したり、口コミサイトから情報を収集するなどして見極めることがポイントです。
離職理由②理念や運営のあり方への不満
人手不足の施設が多い中「業務過多」「無理なシフト・残業」「ケアに対する施設の考え方への不満」など、多くの不安や不満を抱えながら働いている方も少なくありません。上司に相談しても改善されない、現場を把握しようとしない経営者など、上に対する不満を抱える方も多くいます。意見しても改善されない、そもそも施設と方向性が合わなかったとして離職する方も多いのが現状です。
しかしひとくちに介護施設といってもさまざまな種類があり、特徴や働き方も多岐にわたります。必ず自分に合う職場はあるため、施設の理念や運営体制などに着目して納得できる職場に転職することで問題の解決に期待できます。
離職理由③給料が安い
福祉・介護職は資格が必要な職種もある一方、大部分を占める一般の介護職員は未経験・無資格からでも働けます。これは、人手不足にある状況から少しでも人材を集めようと就業のハードルを低くしていることが背景にあります。無資格でもできる介護業務もあるため、未経験・無資格から入職して資格取得を目指す方も多いのが福祉・介護業界の特徴の1つです。一方でこの点がが、給料の安さに影響しているといえます。
しかし福祉・介護職は、資格取得や経験年数に応じて給料アップしやすい点も特徴です。さらに現在は福祉・介護職員の賃金改善の動きも活発化しているため、今後さらなる給料水準のアップに期待できます。
福祉・介護業界の離職防止や定着促進のための方策
事業所では、早期離職防止や定着促進のため下記のような方策を実施しています。
早期離職防止や定着促進に最も効果のあった方策 | 回答割合(%) |
---|---|
本人の希望に応じた勤務体制にする等の労働条件の改善 | 64.8 |
残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする等の労働条件の改善 | 63.3 |
職場内の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている (定期的なミーティング、意見交換会、チームケア等) |
50.0 |
能力や仕事ぶりを評価し、賃金などの処遇に反映 | 40.1 |
賃金水準の向上 | 36.0 |
業務改善や効率化等による働きやすい職場作りに力を入れている | 35.8 |
有期雇用職員から無期雇用職員への転換の機会を設けている | 35.6 |
悩み、不満、不安などの相談窓口を設けている (メンタルヘルス対策を含む) |
34.7 |
仕事内容の希望を聞いて配置している | 32.1 |
キャリアに応じた給与体系を整備している | 31.1 |
健康対策や健康管理に力を入れている | 29.3 |
経営者・管理者と従業員が経営方針、ケア方針を共有する機会を設けている | 28.1 |
能力開発を充実させている (社内研修実施、社外講習等の受講・支援等) |
25.3 |
職場環境を整えている (休憩室、談話室、出社時に座れるせきの確保) |
22.0 |
新人の指導担当・アドバイザーを置いている | 20.9 |
福利厚生を充実させ、職場内の交流を深めている (カラオケ、ボーリングなどの同好会、親睦会等の実施を含む) |
17.8 |
職員の仕事内容と必要な能力を明治している | 16.2 |
管理者・リーダー層の部下育成や動機付け能力向上に向けた教育研修に力を入れている | 13.9 |
介護ロボットやICT等の導入による働きやすい環境作りに力を入れている | 10.5 |
子育て支援を行っている (子供預かり所を設ける、保育費用支援等) |
8.6 |
半数以上の事業所が労働条件や環境改善の取り組み、コミュニケーションの円滑化を図っており、実際に離職率の低下に貢献しています。離職率を下げるため上記のような取り組みを行っている事業所は、長く働き続けやすい環境が整っているといえます。福祉・介護業界への転職、現在の事業所からの転職を検討している際は、事業所がどのような取り組みを行っているかについても確認することがポイントです。
福祉・介護業界の離職率は平均的!離職率低下のための取り組みも実施されている
離職率が高いイメージの大きい福祉・介護業界ですが、実際のデータを紐解くと離職率は平均的であることがわかりました。しかし、人間関係の悩みや給料の安さ、事業所への不満などを理由に離職する人がいるのも事実です。今後さらに需要が高まる福祉・介護業界では、人材獲得のため労働環境や賃金の改善などに取り組む事業所も増えています。その成果が出ることで、今後福祉・介護業界のさらなる離職率の低下に期待できます。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。