ノーマライゼーションとはどんな理念?考え方や原理、介護への影響などを解説
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/12/22
公開日:2023/02/03
ノーマライゼーションという言葉について、どんな考え方を指すのかしっかりと理解できていない方も多いのではないでしょうか。ノーマライゼーションという理念を理解するため、その考えが誕生した歴史や8つの原理などから解説します。日本での事例や課題についても理解できる内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
ノーマライゼーションとは
ノーマライゼーションとは、社会的マイノリティを含めた全員が、普通の(ノーマルな)生活ができる環境を作ることを指します。
ノーマライゼーションとは、年齢や障がいの有無などにかかわらず、みんなが基本的な権利や普通の生活が保障されている状態を作るべきだという理念です。これは、日本の福祉政策の基本的な考えとして定着しており、例えば、厚生労働省が障がい者の自立と社会参加の支援策を実施する時の基礎理念となっています。
そもそも、英語のノーマライゼーション(normalization)とは、「正常化」「標準化」を意味します。そこから、福祉の分野で「高齢者や障がい者などの社会的マイノリティを特別視して、隔離したり分離したりなどの特別扱いをするのではなく、一般社会の中で彼らが普通(標準)の生活を送れるようにすること」を「ノーマライゼーション」というようになりました。 このノーマライゼーションは、社会的マイノリティが住みやすい環境づくりとして、バリアフリーやユニバーサル・デザインといった具体的なアクションに繋がる概念につながっています。
ノーマライゼーションという理念の歴史(誕生~浸透)
【大まかな流れ】
・1950年代:デンマーク人によってノーマライゼーションという理念が誕生
・1959年:知的障害者福祉法が制定され、初めて言葉が盛り込まれる
・1960年代:北欧諸国にノーマライゼーションという理念が広まった
・1969年:スウェーデン人が、ノーマライゼーションを8つの原理にまとめた
・1969年以降:ノーマライゼーションがアメリカをはじめ、世界的に知れ渡った
・1971年:「国連知的障害者の権利宣言」のベースになった
・1975年:「国連障害者の権利宣言」のベースになった
・1981年:ノーマライゼーション実現のため、国連で「国際障害者年」が定められた
・1981年頃:日本でも理念が取り上げられるようになった
・1990年:アメリカで世界初の障がい者差別禁止法「ADA法」が公布された
・2006年:「障害者権利条約」が国連で採択され、より強固な障がい者支援に繋がった
ノーマライゼーションという概念は北欧で1950~60年代に誕生・発展しました。その後、1970年代以降に国連の「宣言」などのベースとして採用され世界に考えが浸透。その後、世界で法律が制定されるなど具体的な施策が実施されました。2000年代に入ると、より拘束力の強い「条約」が国連で採択され、普及がより進んでいます。
ノーマライゼーションの生みの親:N・E・バンク=ミケルセン
ノーマライゼーションという言葉や概念はデンマークで生まれました。その中心となった人物が、ニルス・エリク・バンク=ミケルセンです。
デンマークの社会省の知的障がい者施設の担当官であった彼は、施設の劣悪な環境を問題視しました。自由に外に出られなかったり、生活のほとんどが集団単位で行われたりする生活が、彼も一時を過ごしたナチスの収容所を彷彿とさせるものだったからです。その後、彼は知的障がい者の生活改善のために、具体的な行動をはじめ、初めて「ノーマライゼーション」という言葉を盛り込んだ法律を1959年に誕生させました。
ノーマライゼーションの育ての親:ベンクト・ニィリエ
デンマークでのノーマライゼーションの動きは1960年代に北欧に広まり、発展しました。ノーマライゼーションの理念を整理して世界に紹介したのが、スウェーデンのベングト・ニィリエです。彼はノーマライゼーションを「社会の主流となっているものにできるだけ近い日常生活の条件下で、知的障がい者が暮らせるようにすること」と定義し、ノーマライゼーション実現のための8つの原理にまとめました。
ノーマライゼーションの8つの原理
① 1日のノーマルなリズム
② 1週間のノーマルなリズム
③ 1年間のノーマルなリズム
④ ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験
⑤ ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
⑥ その文化におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
⑦ その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
⑧ その地域におけるノーマルな環境形態と水準
ノーマライゼーション実現のためには、上記8つの原理を満たすことが必要だと位置づけられています。これを提唱したのは、ノーマライゼーションの概念を体系化したベンクト=ニィリエです。「障がい者が一般市民と同じ生活が送れている」とはどういうことか、明文化した形となっています。
ノーマライゼーションに関連した概念
ノーマライゼーションは、他の社会福祉に関する用語と重なる部分が多いです。
機会均等化
機会均等化とは、サービス・情報・文書などあらゆるものを全員が利用できるようにする過程のこと(特に障がいを持つ人がそういった環境を利用できるようにすること)を指します。
全ての個人に、社会参加への平等な機会を保障するという考え方です。そのためには、教育、保健、終了、社会サービスの内で必要な支援を実施する必要があります。また、権利だけでなく、平等な義務も持たせなくてはならないという考え方です。
ノーマライゼーション:皆が同じ条件下で日常生活を送れるようにすべきという理念
機会均等化:日常生活問わず、あらゆる機会を平等にする過程
バリアフリー
バリアフリーとは、高齢者や障がい者が社会生活を送るうえで、障壁(不便を感じること)となるものを取り除くことを指します。
バリアフリーは、もともと建築用語として物理的な障壁をなくすという意味で使われていました。現在では、バリアには物理的なもの、制度的なもの、文化・情報面のもの、意識上のものがあるとされ、それぞれの面でバリアフリーが図られています。
ノーマライゼーション:障がい者を特別視することなく、皆が同じ条件下で日常生活を送れるようすべきという理念
バリアフリー:多様な人が社会で生活しやすくするなるよう障壁をなくすこと
ユニバーサル・デザイン
ユニバーサル・デザインとは、年齢、能力、状況などにかかわらず、出来るだけ多くの人が使いやすいように生活品や建物、環境をデザインすること、またはそのデザインを指します。
ユニバーサルとは、「すべてに共通の」という意味です。その意味のとおり、ユニバーサル・デザインはすべての人のためのデザインを指します。このデザインは、形あるものだけのデザインではありません。
ノーマライゼーション:皆が同じ条件下で日常生活を送れるようにすべきという理念
ユニバーサル・デザイン:皆が利用しやすいデザイン
インクルージョン
インクルージョンとは、一般的に、多様な人々が互いに個性を認め、一体感を持って働いている状態を指します。
インクルージョン(inclusion)とは、英語で包括を意味する言葉です。ビジネスでよく用いられ、企業内の誰にでも仕事にかかわるチャンスが与えられた状態や個性が認められ活用される組織などを表現する際に使われます。
ノーマライゼーション:皆が同じ条件下で日常生活を送れるようにすべきという理念
インクルージョン:お互いの個性を認め活用される組織・社会の状態
リハビリテーション
障がいを持つ人が、身体的、精神的、社会的な機能を最善のレベルにすること、かつ、そのレベルを維持できることを目指す一時的な過程を指します。
リハビリテーションは、その過程を経て各個人が自分の人生を変えていけるようにすることを目指しています。
ノーマライゼーション:皆が同じ条件下で日常生活を送れるようにすべきという理念(元々は脱施設化の発想から来ている言葉)※
リハビリテーション:社会参加や自己実現のために当事者自身の能力を強化するという過程
※ヴォルフ・ヴォルフェンスベルガーが発展させたノーマライゼーションの考えでは、障がい者自身の能力強化にも焦点があてられています。
ノーマライゼーションを実現する上での課題
・言葉の意味が浸透していない
・国策としての取り組みが十分でない
ここでは、特に日本において、ノーマライゼーションを実現する上で課題となっていることを説明します。
言葉の意味が浸透していない
ノーマライゼーションという言葉を一度は聞いたことのある人が大方であったとしても、一般社会では、その意味をしっかりと理解している人ばかりではないという現状があります。ノーマライゼーションという理念の意味を理解していないため、その状態を実現することが難しくなっている現状があります。
国策としての取り組みが十分でない
ノーマライゼーション推進は、国策として取り組む必要がありますが、財政的な問題から実施が思うようにいかないのが現状です。脱施設化にあたって必要な障がい者を地域で受け入れる仕組みや体制を整えるコストも課題になっています。
介護へのノーマライゼーションの影響
・少人数制の介護施設が増加
・個室の配置
・在宅介護
理念の普及化により、法律や教育にノーマライゼーションが取り入れられるようになりました。一方で、介護業界が受けた影響は下記のとおりです。
従来は大型老人ホームが多数存在していましたが、個人の要望が通りにくく、人として当たり前のリズムで生活することが難しい状態にありました。ノーマライゼーションの浸透により、高齢者個人の意思を尊重する介護へ考え方が変わり、下記のようなさまざまな特性を持つ介護施設が増加しています。
・ 少人数制
・ 完全個室性
・ 高級老人ホーム
また、2025年を目処に普及化が進められている、地域包括ケアシステムの根底にあるものもノーマライゼーションです。介護が必要になったとしても、高齢者が自分らしい暮らしを実現するために、介護のあり方を見つめ直していくことが重要視されています。
日本におけるノーマライゼーションの取り組み
・ 障害者雇用促進法
・ 高齢者の雇用促進
・ インクルーシブ教育
・ 障がい者福祉サービス利用の仕組み
・ バリアフリーの導入
人としての十分な権利が与えられているかを考える上での指標となるノーマライゼーション。法律や教育現場、福祉現場など日常のさまざまな場面で取り入れられています。ここでは、我が国におけるノーマライゼーションに関する取り組みをご紹介します。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法は、障がい者の雇用や就労に関する法律を指します。雇用における障がい者差別の禁止や合理的配慮の義務などを定めている点が特徴です。
【差別の例】 |
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・ 募集・採用機会をなくす ・ 不当な賃金を提示する ・ 障がい者であることを理由にした差別 |
雇用側は、障がい者も通常の労働者のメンバーとして、活躍の場を提供する義務があります。法律で雇用義務を定めたことで、障がい者を雇う民間の企業が少しずつ増えてきているのが現状です。令和3年度の企業の雇用障がい者数と実雇用率が過去最高を達成した点からも、障がい者の働く場所が増えてきていることがわかります。
高齢者の雇用促進
高齢者の雇用促進もノーマライゼーションの取り組みとなっています。たとえば、シルバー人材センター事業の推進などが挙げられます。高齢だから働き手としては不十分であるという差別をなくし、高齢者が長く働けるような環境を整備する必要があります。また、このような雇用者側の責任を、働く社員たちにも同じように浸透させることが必要です。
インクルーシブ教育
インクルーシブ教育とは、教育を受ける側の多様性を尊重し、それぞれのニーズに合わせて教育提供の環境を整えることを指します。障がいに限らず、人はそれぞれ性格が違えば趣味嗜好も異なります。そのため、複雑な背景があるからといって十分な教育が受けられないのは不平等と言えるのではないでしょうか。そのためインクルーシブ教育では、それぞれの違いが個性として評価され、ニーズに沿った教育を一緒に受けられるよう調整を図ることを目指しています。
障がい者福祉サービス利用の仕組み
ノーマライゼーションの考え方に基づき、障がい者の自己決定権を尊重し、サービス事業者との対等な関係を確立するための仕組みが作られています。
従来 | 行政が障がい者の利用するサービスを決定 |
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現在 | 利用者が自らサービスを選択して、事業者と直接契約する支援費制度の確立(平成15年から) |
利用者の増加や安定的な制度のもとサービスが利用できるよう、平成18年4月からは障害者自立支援法に基づく新しい制度へ移行される流れです。
バリアフリーの導入
日本各地で音声案内が導入されたり、スロープが設置されたりするようになりました。障がい者や高齢者が日常生活を送る上で障害となるものを取り除くことをバリアフリーと呼びます。最近では「ユニバーサルデザイン」と呼ばれる製品や環境が作られることが増えてきているのも特徴です。たとえば施設や公衆トイレがユニセックスで、性別問わず使用できるデザインになっているケースなどが当てはまります。一度は目にした、もしくは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。ユニバーサルデザインは、障がいにとらわれず、多くの人が使えるデザインを意味します。最初から障壁のない、使いやすいモノづくりを意識した「ユニバーサルデザイン」の考え方にも、ノーマライゼーションが影響していることがわかります。
ノーマライゼーションを理解して社会を見つめ直そう
障がいの有無に関わらず、地域社会で互いに伸び伸びとした生活を送れるような社会を実現する考え方を「ノーマライゼーション」と言います。8つの原理に基づいており、障がいがあるからと生活リズムや水準が差別されていないか把握することが重要です。ノーマライゼーションの考え方は、障害者雇用促進法やインクルーシブ教育など、さまざまな場面で導入され、私たちの社会に根付こうとしています。
介護業界においても、これまでの大型老人ホームから、高級だったり個室対応だったりその人らしい人生が送れるような介護へシフトチェンジしています。一方で、法律や制度に取り入れられたとしても、私たちが感じる心理的な壁が消えていないのも事実です。障がいがあるから手を貸さないといけないなどの誤った価値観を少しずつ取り除いていく必要があります。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。