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「ユマニチュード」とは?言葉の意味や具体的なケアの実践ステップを解説

著者: ゲートウェイ

更新日:2023/12/22

公開日:2022/12/23

認知症介護では、ケアが思い通りに進まない日もあり、対応が難しい場面が多くあります。認知症の人の介護や看護ケアにお悩みの方におすすめなのが、フランス生まれの「ユマニチュード」という技法です。今回は、ユマニチュードの言葉の意味や考え方、基本となる4つの柱や5つのステップなど具体的なケアの方法についてご紹介します。

ユマニチュードとは?

ユマニチュードは、認知症の人に向けたケアの方法です。知覚・聴覚・言語を用いたコミュニケーションに基づく、人間らしさを尊重するための哲学と技法をいいます。ユマニチュードは、1979年にフランスの体育学の専門家、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが生み出しました。フランス語で「人間らしさを取り戻す」という意味を持っています。

日本で初めてユマニチュードのケアが行われたのは、2012年。現在では介護や看護の現場だけでなく、自宅における介護にも広く浸透しています。

ユマニチュードの考え方

ユマニチュードは、認知症患者の人間らしさや個人の尊厳を尊重することを基本と考えます。ユマニチュードの開発者は、認知症になり1人で生活できない人であっても、最期の日まで「人間らしさ」が尊重されるべきであると説きました。

「人とは何か、ケアをする人とは何か」を問い、ケアを通して「あなたは大切で必要な存在である」というメッセージを伝えることを重視しています。

ユマニチュードが確立された背景

ユマニチュードを開発した2人は、認知症の人の日常の行動すべて介護者が支援している現場を見て、その人の人間らしさが失われることを恐れます。

人間らしさを尊重し続けるためには、その人が持つ能力や健康を向上・維持できるケアが必要であると考えました。たとえ認知症になっても、すべての機能が失われたわけではないからです。
自分でできることを進んでやってもらうことが、その人が持つ能力を奪わないケアにつながると気づき、失敗を重ねながらケアの技法を生み出しました。

ユマニチュードの目的

ユマニチュードは、ケアを施す人を「ケアのプロ」と位置づけており、介護を受ける人の状態に合わせて3段階のケアを行うことを目標としています。

1.心身の回復を目指す ・寝たきりにならないよう、立位時間を増やす
・立った状態で体を拭く
2.悪化しないよう機能を維持する ・車椅子を使う時間を減らして歩行を促す
・自分の手で食事をしてもらう
3.最期の瞬間まで寄り添う ・患者さんの気持ちに寄り添い、声かけや見守りを行う

第一に、筋力の低下や症状の悪化を防いで心身の回復を目指す(1)のケアを実践します。1が難しくなった場合に行うのが、これ以上状態を悪化させないよう今ある機能を保つ(2)のケアです。
そして、1も2も難しくなった場合は、残された機能が失われないよう配慮し、最期の日まで穏やかに過ごせるように寄り添う(3)のケアを行います。
どの段階のケアも、個人の尊厳や健康を損ねないことが大前提です。

ユマニチュードの実践で期待できる効果

・介護を受ける人への効果
・介護者への効果

ユマニチュードの哲学や技法を正しく取り入れることは、介護を受ける人と介護者の両方にプラスの効果があります。
ここでは、ユマニチュードの実践によって期待できる効果をご紹介します。

介護を受ける人への効果

山形県三川病院が行った研究では、次のような結果が報告されています。

研究対象 認知症治療病棟に入院中の認知症患者
(A氏・80代女性/混合型認知症)
ユマニチュード実施前の様子 ・午後に焦燥感が見られる
・声かけの内容理解に時間がかかる
・怒りっぽくなる場合がある など
ユマニチュード実施中の様子 ・焦燥感が強いときは拒否的な発言も見られた
・介護を中断して散歩をすると、笑顔が見られた
・その後トイレ誘導を再開すると、拒否なくケアを受け入れてくれた など

 

個人差はありますが、ユマニチュードを実践することで、介護の拒否が減りケアを受け入れてもらいやすくなる効果が見られます。
このほかの研究でも、認知症の行動心理症状が一部改善したとの結果が報告されました。

介護者への効果

日本看護研究学会では、在宅介護を行う家族に向けてユマニチュードのトレーニングを実施し、次のような結果が得られました。

研究対象 A氏(60代女性/90代の認知症女性を在宅介護する娘)
ユマニチュード実施前の様子 ・認知症の周辺症状により、スムーズに介護ができない
・相手に否定的な態度をとったりマイナスな感情を抱いたりする自分を反省
・自分の介護技術が下手であると感じる など
ユマニチュード実施後の様子 ・介護の拒否がなくなり、協力的な態度が見られた
・認知症の視線から新たな気づきが得られた
・介護や将来についての不安が減少
・介護の技術と自信の向上 など
引用:一般社団法人 日本看護研究学会「在宅認知症高齢者の家族介護へのユマニチュード導入の効果

 

こちらも個人差はありますが、ユマニチュードのトレーニングによって介護者が認知症の人の視線になってものごとを考えたり、介護技術の向上を感じたりするプラスの効果が見られました。
このほかの調査では、介護者の精神的な負担が軽減したという効果も報告されています。

ユマニチュードの基本|4つの柱

・見る
・話す
・触れる
・立つ

4つの柱とは、「あなたを大切に思っている」気持ちを伝える技術です。ユマニチュードでは、言葉を介さない「非言語コミュニケーション」を重視しており、4つの柱はすべてこれにあたります。

介護の基本である4つの行為を通して、相手を大切に思う気持ちを届けることで、ユマニチュードが目指す「人間らしさを尊重するケア」を実践できます。
4つの柱について、詳しく見ていきましょう。

見る

見る技術は、相手に平等な立場であることを伝える行為です。具体的には、「目線の高さを合わせる」「近い距離で正面から見つめる」などが挙げられます。

介護者は無意識のうちに、ケアをする部位だけに視線を送ったり、寝ている相手を上から見下ろしたりしがちです。
見る姿勢や態度によっては、相手に威圧感や不信感を与える可能性があります。具体的な時間として、0.5秒以上見つめ合うことを意識しましょう。

話す

話す技術は、安定した関係を築き、相手に心地よい状況を伝えるものです。
介護者は「動かないでください」「すぐに終わります」など、命令的な言い方をする場合があります。相手にネガティブなメッセージを伝えてしまうので、低めの声や大きすぎない声、ポジティブな言葉選びを意識して話しかけましょう。

相手から返答がないときは、今実践中のケアを実況する「オートフィードバック」を取り入れて、無口になるのを避けることが大切です。

触れる

相手にやさしい気持ちや安心感を伝えるのが、触れる技術です。
介護者自身はやさしくケアをしているつもりでも、介護を受ける人は「つかまれている」「自由を奪われている」と受け取る場合があります。

強い力でつかむのではなく、「手のひら全体でやさしく触れる」「手をゆっくり動かす」などを心がけましょう。
背中や肩など感覚が鈍い部位から順番に触れ、徐々に顔や手といった敏感な部位に触れることも有効です。

立つ

ユマニチュードでは、立つことは「人間らしさ」を表す行為であり、1日合計20分立つ時間を作ることで寝たきりになるのを防げると提唱しています。

「立った状態で体を拭く」「トイレまで歩いて移動する」などして、1日のうちできる限り立つ時間を増やしましょう。
介護を受ける人の心身の状態に合わせて、無理のない範囲で行うことが大切です。

ユマニチュードの実践|5つのステップ

1.出会いの準備
2.ケアの準備
3.知覚の連結
4.感情の固定
5.再開の約束

5つのステップとは、ユマニチュードの基本である4つの柱を実践する手順を指します。
4つの柱を組み合わせながら、物語が進むイメージで流れるように行うことが重要です。

ここでは、5つのステップで意識したいポイントをご紹介します。

1.出会いの準備

出会いの準備は、介護を受ける人に自分が来たことを伝え、その人の領域に入ってよいか許可を得る行為です。
家や部屋に入る際は、次の手順に沿って自分の来訪を伝えます。

(1)ドアを3回ノック
(2)3秒待つ
(3)ドアを3回ノック
(4)3秒待つ
(5)ドアを1回ノック
(6)入室

相手に、自分の来訪を十分に告げないまま相手の領域に踏み入れると、介護を受ける人は不安や恐怖を感じてしまいます。
安心し落ち着いた精神状態でケアができるよう、時間をかけて出会いの準備をしましょう。

2.ケアの準備

ケアの準備では、介護を受ける人にこれから行うケアについてわかりやすく伝えます。

(1)相手の正面から視界に入る
(2)アイコンタクト成立後、3秒以内に話しかける
(3)「あなたに会いに来た」と喜びややさしい気持ちを伝える
(4)相手が自分を認識してきたら、ケアの説明をする

相手の同意がないままいきなりケアを行うのはNGです。まずはあいさつや日常会話から話し始め、自然とケアに誘う声かけをしましましょう。
ポジティブな言葉を選び、「あなたに会えて嬉しい」というやさしい気持ちを伝えると、相手と良好な関係を結べます。

3分話してもケアを拒否される場合は、一度ケアを中止しましょう。

3.知覚の連結

知覚の連結とは、実際に行うケアの段階です。
4つの柱のうち、「見る」「話す」「触れる」を2つ以上組み合わせながらケアを進めることで、ユマニチュードの基本である「あなたを大切に思っている」メッセージが伝わります。

このとき、声かけはやさしいのに触れる力が強いなどケアに矛盾が生じると、介護を受ける人は混乱し不安感を覚えてしまいます。介護者は、調和のとれた一貫したケアを心がけましょう。

4.感情の固定

感情の固定はケアを終えた後、介護を受ける人の感情記憶によい記憶を残すためのステップです。
認知症の人は新しい体験を忘れてしまいますが、嬉しい・悲しいといった感情記憶は持ち合わせています。

たとえば入浴であれば、「とても気持ちよかったですね」「さっぱりしましたね」のように、ポジティブな言葉で声かけをしましょう。
「あなたのおかげで素敵な時間を過ごせた」のようなプラスの感情が残ることで、次回のケアを受け入れてもらいやすくなります。

5.再会の約束

再会の約束は、次回のケアをスムーズに受け入れてもらえるよう準備する行為です。
「また会いに来ますね」と伝えることで、「素敵な時間を一緒に過ごしたあの人がまた来てくれる」というポジティブな感情記憶が残ってくれます。

言葉で伝えるだけでなく、何度も読み返せるメモを残す方法もおすすめです。
認知症で忘れてしまうからと諦めず、よい感情記憶として残るような対応を心がけましょう。

ユマニチュードを実践する上で意識したいポイント

ユマニチュードでは、個人の健康や尊厳を損ねないケアを大前提としています。ユマニチュードのケアを取り入れる際は、介護を受ける人の体調や性格を見極め、その人のペースに合わせて無理のない範囲で実践しましょう。

また、ユマニチュードの5つのステップは時間をかけて行う必要があります。できる限り多くの時間を確保して、ゆとりを持って実践しましょう。
介護の現場で実践する際は、ほかのスタッフとの連携や協力も重要です。

ユマニチュードの研修

「一般社団法人日本ユマニチュード学会」では、ユマニチュードの哲学や技法についての研修を実施しています。ユマニチュードに関する書籍は多数販売されていますが、研修であればより専門的な知識を詳しく学べるでしょう。

なお、令和4年7月現在、研修の開催時期は未定となっています。研修が再開される際は公式ホームページで案内があるので、ユマニチュードについて深く学びたい方は受けてみることもおすすめです。

ユマニチュードはやさしさを届ける認知症ケア技法

ユマニチュードは、人間らしさを尊重するケア技法です。個人のペースに合わせて取り入れることで、介護を受ける側・施す側のどちらにもプラスの働きがあります。また、4つの柱や5つのステップを単なる作業と捉えず、相手にポジティブなメッセージを届ける意識をしながら実践することが何より重要です。ご紹介した内容を参考に、ユマニチュードについて理解を深めてみてください。

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ゲートウェイ

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異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。

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