移乗介助の方法・コツとは?介護現場で必須の基本知識から解説
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/05/19
公開日:2023/05/19
介護者・被介護者双方の体に負担の少ない移乗をするためには、適切な移乗方法やボディメカニクスなど、基本を理解することが大切です。今回は、介護現場でありがちな各シチュエーション・被介護者のレベルに合わせた介助方法、移乗介助における注意点やコツを詳しく解説します。
目次
移乗介助の基本的な方法:シチュエーション別
介護の現場において移乗介助が必要となる主なシチュエーションは、「ベッドから車椅子」「車椅子からベッド」「床からの移乗」の3つです。介護現場では基本的な移乗方法の習得が必要なので、手順や注意点について詳しく解説します。
ベッドから車椅子への移乗介助
1. 車椅子をベッドに対して45度の角度で、できる限り近づける
2. ベッドを車椅子と同じ高さに調整する
3. 被介護者にベッドに浅く腰かけてもらう
4. 被介護者の足の裏をしっかり地面につける
5. 肩甲骨(車椅子側)と骨盤(その反対側)を支えて密着する
6. 介護者は腰を落とし、被介護者が前かがみの姿勢にする
7. 被介護者の体を前方へ傾け、お尻の高さを保ったまま回転させて移乗する
車椅子を設置した際にフットレストが上がっているか、ブレーキがかかっているか、ベッドの高さが適切かを必ず確認してください。
移乗する際は、被介護者にベッドの端に浅く座ってもらい、車椅子側の足を少し前方に出します。車椅子に移乗した際に足がねじれてしまわないようにするためです。
手順5からは、介護者が被介護者の肩甲骨(車椅子側)と臀部(その反対側)に手を添えて、被介護者を介護者の肩で支えるようにして移乗します。
車椅子からベッドへの移乗介助
1. ベッドと車椅子の高さを同じに調整する
2. 車椅子をできる限りベッドに近づける
3. 被介護者に車椅子に浅く腰かけてもらう
4. 被介護者の足の裏をしっかり地面につける
5. 介護者は被介護者の重心に合わせて、腰を落とした姿勢にする
6. 肩甲骨(ベッド側)と骨盤(その反対側)を支えて密着する
7. 被介護者の体を前方に傾け、お尻の高さを保ったまま回転させて移乗する
ベッドの高さを調整する際に車椅子が挟まれて破損することもあるので、必ずベッドの高さを調整してから車椅子を近づけます。車椅子のブレーキがかかっているか、フットレストが上がっているかを確認してください。
移乗の前に、被介護者に車椅子に浅く座ってもらい、ベッド側の足を少し前方に出します。手順5からは、介護者が被介護者の肩甲骨(ベッド側)と臀部(その反対側)に手を添えて、肩で支えるようにして移乗します。
床からの移乗介助
1. 被介護者の体を小さくまとめ、横向き姿勢にする
2. 被介護者の体から車椅子・ベッドまで十分なスペースを確保する
3. 被介護者の体を「くの字」にする
4. 被介護者の肩甲骨と両膝裏に腕を回してしっかりと支える
5. 被介護者の体を手前に引くようにして体を起こし床に座ってもらう
6. 被介護者の後方に回り、膝を立たせてしっかり抱え込む
7. 振り子の要領で体を前後に大きく揺らし、立ち上がらせる
まずは十分なスペースを確保してから、被介護者の体を小さくまとめ横向きの姿勢にします。介護者は被介護者の体が「くの字」になるようにしながら、肩甲骨と両膝裏に腕を回して支えてください。その状態から被介護者の上体を手前に引くように起こすと、臀部が支点となるため比較的小さな力で対応できます。
手順7は、後方から被介護者の体を支えながら前後に大きく揺らし、声かけでタイミングを計って一気に立ち上がります。
移乗介助のコツ:必要な介助のレベル別
移乗介助ではシチュエーションに加えて、被介護者の体格や障がいのレベルに合わせた移乗を行う必要があります。ここでは、被介護者が全介助・片麻痺・一部介助の場合と、自分よりも体重が重い人の場合の移乗方法について解説します。
全介助・片麻痺の場合
1. 麻痺がない側に車椅子を設置する
2. 介護者は、被介護者の麻痺がある側の斜め前に立つ
3. 被介護者に麻痺がない側の手で車椅子のアームを握ってもらう
4. 被介護者の動線を意識し、双方の間に空間を設ける
5. 被介護者の脇腹あたりを支え、麻痺がない側の足を軸に回転するように移乗させる
ベッドから車椅子へ移乗する際は、必ず麻痺がない側に車椅子を設置します。次に足がクロスしていないか、麻痺がある側の足の位置に問題がないかを確認してください。
介護者は転倒リスクの高い麻痺のある側に立ち、ふらついた際にすぐ支えられるようにします。また、片麻痺の場合は、体を密着させると被介護者が動きにくくなるので、少し空間を設けることもポイントです。
一部介助の場合
1. 介護者は車椅子の反対側に、被介護者に対して斜め前に立つ
2. 被介護者に片方の手で車椅子のアームを握ってもらう
3. 被介護者の動線を意識し、双方の体の間に空間を設ける
4. 被介護者の脇腹付近をやさしく支えながら、移乗させる
一部介助の方の移乗介助において重要なポイントは、自分の力を使って移乗してもらうことです。体を持ち上げたり、強い力で支えたりといった過度な介助はしないようにしましょう。
介護者は被介護者がふらついたときに対応できるよう車椅子と反対側に立ちますが、あまりに近い位置で立つと被介護者の動きを妨害してしまいます。適度な空間を設けるように意識しましょう。また、安全に移乗するには介護者の声かけも重要です。
体重が重い人の場合
1. 被介護者の正面に椅子を置く
2. 被介護者の体をなるべく小さくまとめる
3. 被介護者の足裏を地面につけ、体を前かがみの姿勢にする
4. 体を密着させて被介護者を抱え込んだ後、介護者はそのまま(1)の椅子に座る
5. 回転しながら体の向きを変え、椅子から立ち上がって移乗する
自分より重い人を一人で車椅子からベッドへ移乗する際のポイントは、一気に移乗せず一度椅子に座ってワンクッションを設けることです。また、車椅子でも浅く腰かけてもらい、膝を曲げて前かがみにすることで「くの字」となり小さくまとめられます。この状態にすることで、介護者は最小限の力で移乗介助ができます。
今回は一人での介助方法を紹介しましたが、二人で介助できる場合は二人での介助を優先しましょう。
無理なく安全に移乗するための「ボディメカニクス」8原則
1.支持基底面積を広くとる
2.重心を低くする
3.重心を被介護者に近づける
4.被介護者の体を小さくまとめる
5.体全体を使う
6.体をねじらない
7.水平に移動させる
8.てこの原理を活用する
ボディメカニクスとは、人間の骨格・筋肉・関節などの構造を機械としてとらえることで、最小限の力で済む体の動かし方を解明する学問です。
介助をする際は介護者の体に負担がかかりやすく、腰痛の要因となります。腰痛を予防するためには、ボディメカニクスを取り入れた介助方法の実践が大切です。
ボディメカニクス8原則を実践するためには、まず足を広げて膝を少し曲げることで安定した体勢を作ります。さらに被介護者との重心を近づけることで、太もも・お腹・背中などの大きな筋肉が使いやすくなります。大きな筋肉を使うことで体への負担軽減や、安定した介助により被介護者の安心にもつながるでしょう。
移乗介助を行う際の注意点
・車椅子にブレーキをかけ、フットレストを上げる
・ずり落ちを防ぐために深く座ってもらう
・介護者のズボンを引っ張り上げない
・皮膚剥離(はくり)や内出血に注意する
・勢いをつけずゆっくりとした動作を心がける
・無理に持ち上げない
・関節や腰に負担をかけない姿勢をとる
移乗介助を行う前に、「ベッドと車椅子の高さは水平か」「車椅子のブレーキはかかっているか」「フットレストが上がっているか」「車椅子・ベッド・床などが滑らないか」「ベッドと車椅子の角度が45度か」を確認しましょう。アームレストやサイドレールを握ってもらうことも重要です。
移乗する際の注意点は、「被介護者のズボンを引っ張ることはしないこと」「被介護者の股の間に足をいれないこと」です。どちらも被介護者にとって不快感につながる恐れがあります。ボディメカニクスを取り入れるためにも、介護者の足は被介護者の足の外側にしましょう。
車椅子へ移乗後は、転落を防ぐために深く座れているかを確認してください。
移乗介助に使える便利な福祉用具
手順やボディメカニクス以外で移乗介助において重要なことは、被介護者の状況にあわせて適切な福祉用具を利用することです。移乗介助に使える福祉用具は主に5つあり、それぞれの特徴を解説します。
スライディングボード
スライディングボードは、被介護者が座った状態で移乗ができるように、表面に滑る加工が施されたボード状の福祉用具です。主にベッドと跳ね上げ式車椅子の間での移乗に用いられ、介護者は被介護者をゆっくりとスライディングボードの上を滑らせることで安全・安楽な移乗を実現します。
介助ベルト
介助ベルトは、複数の持ち手がついたベルト状の福祉用具で、被介護者の腰に装着することで介護者がしっかりと持ち手を握って体を支えられるようになります。移乗でズボンを引っ張ると皮膚がこすれたり、ズボンが破けたりする原因になるので、介助ベルトを利用することはズボンを引っぱらないようにするためにも有効です。
スライディングシート
スライディングシートは、つるつると滑る素材でできた筒状・一枚のシート状の福祉用具で、ベッド上の移動・体位変換・移乗の際に用いられます。被介護者の体の下に敷いてシート上を滑らせるように移動させることで、小さな力でも介助が可能です。ただし、よく滑るためベッドに体をぶつけてケガをさせないように注意が必要です。
移乗用ボード
移乗用ボードは、二人以上で全介助の方を移乗介助する際に使用する福祉用具です。形状は複数の持ち手がついているタイプと、筒状のシートにボードを通したタイプがあります。被介護者の体の下に敷いて、滑らせながらリクライニング式車椅子やストレッチャーへ移乗します。移乗の際はボードを持ち上げないように注意しましょう。
移乗用リフト
移乗用リフトは、スリングと電動の力により被介護者を吊り上げるようにして移乗をサポートしてくれる福祉用具です。固定式・床走行式・天井走行式など、様々な種類があります。移乗用リフトを充実させて積極的に活用することで、介護者・被介護者ともに体への負担が少ない「持ち上げない介護」の実施につながります。
介護者・被介護者双方の体にやさしい移乗を意識しましょう
介護者・被介護者双方の体にやさしい移乗方法を実現するためには、移乗の手順や障がいの理解、ボディメカニクスなど基本的な知識が大切です。特に、ボディメカニクスにより体の正しい使い方を理解することは、介護者の腰痛予防につながります。さらに負担を減らす方法として、移乗用リフトなどの福祉用具を活用する方法もあります。
移乗用リフトなどの福祉用具を積極的に取り入れている施設で働きたい方は、以下より該当する介護施設を探してみるのもおすすめです。ぜひ一度、チェックしてみてください。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。