介護現場におけるIoTとは?活用事例や導入についての現状と課題、将来性
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/06/16
公開日:2023/06/16
近年よく耳にするIoT。介護現場でも活用が進んでいます。ただし、IoTが介護現場でどのように活用されるのか、そもそもIoTという言葉が何を指すのか分からないという人も多いでしょう。ここでは、介護でIoTを活用した事例や、介護におけるIoT導入の現状と課題などを含め、分かりやすく解説していきます。
目次
介護現場においてIoT技術が果たす役割とは
近年、介護現場でもIoT技術の活用が促されています。適切に活用するために、まずはIoTとは何かを学んでおきましょう。
そもそもIoTとは?
IoTとは「Internet of Things」の略で、「アイオーティー」と読みます。直訳すると「モノのインターネット」。もの同士がインターネットで繋がり、情報を交換することです。
IoTでは「モノ」に通信機能やセンサー、カメラなどを搭載し、取得した情報をインターネット経由で伝達します。IoT技術によってできることは以下の4つです。
IoT技術でできること |
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・モノを遠隔操作する ・モノの現在の状態を知る ・モノの動きを知る ・離れたモノ同士で通信をする |
IoT技術は家電や自動車、工場など多くの機器で活用され、さまざまな場面でインターネットを介した情報の送受信が行われています。
身近なIoTのひとつが、照明やエアコン、冷蔵庫などのスマート家電です。帰宅前に遠隔操作でエアコンを入れ室内を快適な温度にしたり、冷蔵庫が食材の賞味期限のアラートをしてくれたりと、便利な生活に役立っています。
介護現場におけるIoTの導入の手順
介護現場におけるIoT技術導入の手順 | |
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STEP.1 | 環境の整備 |
STEP.2 | 課題に適したIoTソフトウェアの選定 |
STEP.3 | IoT機器の導入 |
介護現場へIoTを導入する際は、まずインターネット環境の整備を行います。その後、見守りシステムや書類作成システムなど必要なソフトウェアを選び、それに対応した機器の導入を行う流れです。
IoT導入のネックが、Wi-Fi環境の整備やIoT機器の導入・運用にかかる費用です。長い目で見れば費用対効果が高いですが、事業所の経営状況によっては負担が大きい場合もあるでしょう。
その場合は、補助金制度を活用すると負担を軽減できます。補助金制度には、ICT導入支援事業や介護ロボット導入支援事業などがあります。
介護現場にIoT導入が進められる背景
介護現場にIoT導入が進められているのは、業界特有の課題を解決するためです。IoTが進められる3つの背景について、くわしく解説します。
介護業界の人材不足
介護現場へのIoT推進背景には、介護業界の人材不足が深く関わっています。近年の少子高齢化の影響で、介護業界に関わる人材が不足。担い手不足が続くと、適切な介護サービスを提供できなくなってしまう恐れがあります。
夜間の見守りシステムや介護記録など、IoT技術を導入することで、少ない人数でも介護サービスの質を保てます。介護現場でのIoT活用で、人材不足をカバーする狙いがあるのです。
介護が必要な高齢者の増加
介護を必要とする高齢者の増加も、介護現場でのIoT活用を進める要因です。内閣府が発表した「令和2年版高齢社会白書(全体版)」によると、令和元年の総人口に占める65歳以上の高齢者割合は28.4%でした。令和47年には38.4%にも達し、国民のおよそ2.6人に1人が65歳以上の高齢者であると推計されます。
現役世代が減少し、介護現場が人材不足に陥る中でも、高齢化は続く一方です。そのため、介護サービスが必要な人の割合も増える可能性が高まります。
このような課題を解決するため、IoT技術を導入し、高齢化に対応できる介護の現場に整えていく必要があるのです。
介護の質の低下
介護の質を保ち、現場スタッフの定着率を高めるためにも、介護現場へのIoT導入が必要です。
介護業界の人材不足が進むと、スタッフ一人ひとりの業務量が増え、介護サービスの質を低下させる可能性があります。介護スタッフへの負担増加は、現場で働く人の定着率低下も招きかねません。
介護現場へIoT技術導入を進めることで、スタッフの負担軽減を図り、良質なサービスを提供できる体制に整えていけます。
介護現場におけるIoTの主な活用事例
介護分野でのIoT導入を考えるとき、実際の活用事例を知るとイメージしやすいでしょう。ここでは、介護分野におけるIoTの主な活用事例を5つ紹介します。
見守りシステム
介護現場における代表的なIoT活用例として、見守りシステムがあります。IoT技術を搭載した機器を使って、利用者の健康状態や安否確認などを行うシステムです。転倒や健康状態の悪化など利用者の異常を検知すると、スマートフォンやPCにデータが転送されるため、現場スタッフはすぐに対応できます。
見守りシステムには「接触型」と「非接触型」の2種類の機器があります。具体的な例を以下にまとめました。
【接触型】
ベッドなど利用者が直接触れるものにセンサーを搭載したもの。スタッフがすぐ対応できる介護施設などで活用されている。
【非接触型】
エアコンやドアなど、室内の設備や家電に搭載したもの。離れた場所からの安否確認ができる。
コミュニケーション支援
介護現場のコミュニケーション支援でも、IoT技術が使われています。代表的な例は、センサーやカメラを搭載した「介護ロボット」です。利用者の見守りや声かけ、健康状態の把握などを行えます。
介護ロボットには、AIやモニターを搭載したものもあり、遠方に住む家族とコミュニケーションを取ることも可能です。
排泄支援
介護現場においてIoTは、利用者の排泄のタイミングを予知する排泄支援システムとしても活用されています。
腹部に専用のセンサーを取り付けることで、排尿・排泄のタイミングを検知。おむつ交換など介護者の負担軽減が期待できます。
また、適切なタイミングでのトイレ誘導にも活用でき、利用者の自立支援にもつながるのが利点です。
服薬支援
IoT技術は、介護現場において適切な服薬のタイミングや量をサポートするシステムとしても導入されています。
「服薬支援ロボット」は、服薬支援システムの代表的な例です。ピルケースに薬を入れ本体に取り付け、服用時間などを設定して使います。
薬の服用時間を知らせたり、決まった時間にしか薬を取り出せない仕組みを取り入れたりしている機器が多く、薬の飲み間違いや飲みすぎの予防が可能です。
また、服薬記録を自動保存できるタイプもあるため、データ管理や共有も簡単に行えます。
事務や記録業務などの支援
介護に関する事務や記録業務支援は、IoTの得意分野です。タブレット端末などを使い、データを自動的に記録したり書類を作成したりするのに活用されています。具体例としては、下記のような業務にIoTが活用されています。
・カルテやコール履歴の記録
・ケアプランの作成
・利用者に関するデータの集約
・備品の発注
カルテやケアプランなどの書類作成業務は、介護現場の負担を増やす一因です。IoT機器の導入で手書きからパソコン・タブレットでの作業に移行することで、介護スタッフの書類作成時間を短縮できます。
気軽に情報共有できるメリットもあるため、介護現場におけるスタッフの負担軽減につながるでしょう。
介護現場にIoTを導入するメリット
・スタッフの業務負担を減らす
・情報共有や業務を効率化できる
・介護サービスの質を向上させる
・緊急の際に迅速な対応ができる
・利用者の自立のサポートができる
・事故防止につながる
介護現場へのIoT技術の導入は、スタッフ一人ひとりの業務負担を軽減できるメリットがあります。超高齢化社会が予想される将来、介護スタッフが減るのはほぼ確実でしょう。IoTを効果的に導入・活用することで、介護スタッフの定着率アップにつながる可能性も期待できます。働く人の負担を減らし良質なサービスを提供するためにも、IoTの導入はかかせません。
また、服薬支援ロボットや見守りシステムなどは、万が一の事故防止や緊急事態での迅速な処置を行う手助けとなります。離れた場所から健康状態などを見守れるため、利用者の自立サポートにもつながるでしょう。
介護現場にIoTを導入するデメリット
・導入・維持に費用がかかる
・スタッフ間での理解の統一が難しい
・個人情報の流出のリスクがある
便利なIoT技術ですが、デメリットもあります。
まずは、コスト。導入する際の費用・継続して使うための維持費用は決して安価ではありません。
さらに、IoTの技術を有効活用するには、その事業所で働くスタッフ全員が使い方や使用目的をしっかりと理解する必要があります。定期的に研修会などを開いて確認を行っても、スタッフ全員がしっかりと理解することはなかなか難しいでしょう。
また、個人情報管理の問題もあります。IoT化によって利用者のデータを簡単に取得できるようになる分、データの取り扱いには細心の注意が必要です。
このようにいくつかのデメリットもありますが、IoTは介護現場スタッフの負担軽減や介護サービスの質向上に大いに役立ちます。デメリットもきちんと理解したうえで、適切に導入・活用を進めることが重要です。
介護現場におけるIoT導入の現状と課題
現状、IoTの導入が積極的に進んでいるわけではありません。費用がかかるなどデメリットもあるため導入に踏み切れない場合もあるでしょう。
費用面で介護現場へのIoT導入にお悩みの場合は、国が支援する補助金制度も利用できるので、ぜひ検討してみてください。
介護ロボット導入支援事業
概要:各都道府県の地域医療介護総合確保基金を活用して、介護ロボット導入支援を行う
目的:介護現場スタッフの負担軽減や業務効率化
対象:移乗支援・移動支援・入浴支援・見守りなどの介護ロボット
上限額:対象により異なる。年々上限額の拡充が行われている。
ICT導入支援事業
概要:介護の現場にICT機器を導入する際の費用の一部を補助
目的:介護サービスの業務効率化や職員の負担軽減
対象:介護ソフト・情報端末・通信環境機器・運用経費など
上限額:事業所の職員数に応じて設定
介護現場へのICT導入には、介護ロボット導入支援事業やICT導入支援事業といった補助金制度の利用が可能です。費用の問題があっても、これらの支援事業で負担を減らせます。積極的に活用することで、介護現場へのIoT導入を進めやすくなるでしょう。
介護現場にIoTの導入が進むことで起こりうる変化とは?
介護現場へのIoT導入について、現状ではまだ課題があります。しかし、今後IoTの導入が進んでいけば、労働環境が改善し働きやすくなることが見込めるでしょう。業務負担が軽くなるためスタッフの定着率アップを促し、さらには仕事へのやりがいアップにもつながる可能性があります。
また、IoTの導入は若い世代の介護人材確保につなげる狙いも。IoT技術は若者に親しみのあるシステムであるため、介護業界の新たなイメージ作りに貢献できると考えられます。IoT導入により、介護業界の人材不足解消や働き方改革につながることが期待されています
介護現場のIoT活用は業務の効率化と介護サービス向上に役立つ
介護現場におけるIoT導入では、スタッフの負担を軽減しつつ、サービスの質を向上させる狙いがあります。介護書類作成や見守りシステムなど幅広く活用できる反面、費用がかかるデメリットも。
介護ロボット支援事業やICT導入支援事業をうまく活用することで、初期費用やランニングコストを軽減できます。
介護現場へのIoT導入は、やりがいを感じながら介護業務に従事できる人が増える将来につながるでしょう。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。