介護保険法改正(2021年施行)の内容とは?概要を分かりやすく説明
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/12/22
公開日:2023/01/06
2021年4月、改正された介護保険法が施行されました。3年に1度改正される介護保険法ですが、当回はどのような点が改正されたのかご存知でしょうか。ここでは、介護保険法の基礎知識と主な改正点、法改正による影響について解説します。また、今後の法改正についても触れますので、国の介護施策の方向性を知りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
そもそも介護保険法とは
介護保険法とは、介護給付や予防給付など介護保険についての決まりを定めた法律のこと
介護保険法は、介護保険制度を運用するためにできた法律です。介護保険制度には、高齢者の介護を社会全体で支え合う目的があります。制度を効果的に運用するための決まりとして、介護保険法が制定されました。
介護保険制度は社会保険方式を採用しており、40歳以上の人から介護保険料を徴収しています。集めた保険料と税金から介護サービス費用の一部を支払い、利用者の自己負担を軽くする仕組みです。
介護に必要なサービスやお金は、高齢者数の増加に伴い変化します。現状に合った施策や保険料徴収を行うため、介護保険制度の定期的な見直しが必要です。そのため、介護保険法も原則3年に1度の頻度で改正されています。2021年度の改正内容は法案閣議決定を経て、2020年6月5日に成立しました。
2021年施行の介護保険法改正のポイント
・地域住民に対する包括的な支援体制の構築
・地域の状況に合わせた認知症施策や介護サービス提供を促進
・医療・介護領域におけるデータ利活用の推進
・介護人材確保と業務効率化の促進
介護保険法は、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)」として、社会福祉法や老人福祉法などと一緒に改正されました。
この改正は、地域共生社会の実現に一歩近づこうとするもの。その中でも、介護保険法は上記4つの取り組みに関するものとして改正されました。ここでは、このポイント4つを分かりやすく解説します。
地域住民に対する包括的な支援体制の構築
地域住民の抱えるさまざまな課題を包括的に支援する体制を市町村が構築できるようサポートするというのが、2021年の改正のひとつのポイントです。この視点から、社会福祉法も改正されており、属性や世代を分けない支援のニーズにこたえようとしています。
要介護の高齢者を抱える家庭では、育児や生活困窮などの問題を同時に抱えている場合もあります。しかし、介護・子育て・生活困窮では相談窓口が違うため、手続きがわずらわしい・窓口同士の連携が取れないなどの問題がありました。
このような複合化した課題を解決するためには、介護だけではなく福祉分野も変えていく必要があります。そのため、社会福祉法に基づき新たな事業の創設が盛り込まれました。市町村に対し「相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3本柱で、新たな事業を創設するよう求めたのです。
地域の状況に合わせた認知症施策や介護サービス提供を促進
2025年や2040年などの高齢化が進行する未来を見据え、地域の状況に合わせた認知症施策や介護サービスを進める方針も盛り込まれました。
注目すべきは認知症に対する施策です。厚生労働省の研究では、2025年には65歳以上の2割が認知症になるという試算結果が出ています。75歳以上の人口は都市部ほど急激に増加するとも見られており、将来を見越して地域に応じた対策が必要です。
そこで、認知症サポーターを積極的に育成し、地域で見守る「チームオレンジ」などの仕組みづくりが開始されました。2025年までに整備する市町村数が100%になることを目指しています。
また、その他、地域支援事業におけるデータ活用や、介護サービス提供体制の整備も進められています。
医療・介護領域におけるデータ利活用の推進
市町村の努力義務として、医療・介護領域におけるデータ利活用の推進も盛り込まれました。
地域の介護サービスを考えるには、高齢者数や介護サービスの利用状況など、現状のデータが必要です。医療や介護、健康診断などのデータ分析により、高齢者の現状が分かり、ニーズに合わせたサービスを提供しやすくなります。
佐賀県佐賀市では、ビックデータを活用し高齢者の介護予防を推進しています。医療・介護・検診データを解析し、重症化リスクの高い高齢者を抽出。医療専門職の指導を受ける機会を提供したり、医療機関への受診を勧めたりなど、適切な高齢者支援につなげています
介護人材確保と業務効率化の促進
介護分野の人材不足の深刻さが増していく中で、地域の高齢者介護を支える人的基盤の確保を図るというのも、ポイントの一つです。
高齢化に伴い、介護サービスの需要は継続的に高まることが予測されます。適切な介護サービスを提供するために、介護人材の確保は必須です。しかし今後64歳以下の生産年齢人口が急減するとも推測されていて、より少ない人手で回る福祉を考えなければなりません。
そこで、人材確保のためのさまざまな取り組みが行われています。具体的には、介護職員の賃金向上や、福祉系高校の学生に返済免除付き就学資金貸付を行うなどです。また、介護ロボットや見守りセンサー、ケア記録ソフトなど、ICTの活用による業務改革も進められています。
2021年施行の介護保険法改正による影響
介護保険法改正による一番の影響は、高額介護サービス費の内容変更です。改正前は月額の自己負担額の上限が4万4,400円でしたが、改正後は年収で判断されるようになりました。たとえば年収1,160万円以上の市民税課税世帯であれば、自己負担額の上限は14万100円となります。所得に応じた額とはいえ、10万円近く増えるのは家族にとって負担が大きく感じられるでしょう。
これまでの介護保険法改正の経緯
時期 | 主な改正点 |
---|---|
第1期 (2000年) |
・介護保険制度が始まる |
第2期 (2006年) |
・介護予防の重視 ・地域包括支援センター創設 ・地域密着型サービスの創設 |
第3期 (2009年) |
・介護サービス事業者の法令遵守等の業務管理体制整備 |
第4期 (2012年) |
・地域包括ケアの推進 ・24時間対応の定期巡回サービスや複合型サービスなどの創設 ・医療的ケアの制度化 |
第5期 (2015年) |
・地域医療介護総合確保基金の創設 ・予防給付の地域支援事業への移行 ・低所得者の保険料の見直し ・自己負担額引き上げ(2割) ・特別養護老人ホーム入居者を中重度者に重点化 |
第6期 (2018年) |
・自立支援、重度化防止を制度化 ・介護医療院の創設 ・高所得層高齢者の利用者負担割合の見直し(2割から3割へ) |
第7期 (2021年) |
・収入による保険料の徴収 ・福祉用具レンタル価格の適正化 ・高額介護サービス費の見直し ・市町村の包括的な支援体制構築の支援 ・医療・介護のデータ基盤の整備の推進 |
第8期 (2024年予定) |
・介護保険事業計画がスタート |
改正による一番の変化は、自己負担金の増加です。介護保険制度のスタート時、1割だった自己負担額が、現在では最高3割まで引き上げられています。高齢者数の増加など、給付額の増大により保険料の増額だけでは間に合わなくなったのが理由です。
2024年施行の介護保険法改正予想
2024年は介護保険法とともに、医療保険・障害者総合支援法も改正される年です。そのため、福祉と医療で大きな変化が起こると考えられています。
2022年5月の財政制度等審議会「歴史の転換点における財政運営」では、介護について以下のような提案がされました。
・業務の効率化と経営の大規模化・協働化
・介護施設・事業所等の経営状況の把握
・利用者負担の見直し
・ケアマネジメントの利用者負担の導入等
・多床室の室料負担の見直し
・区分支給限度額の在り方の見直し
・地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の在り方の見直し
・軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等
・軽度者に対する居宅療養管理指導サービス等の給付の適正化
・介護給付費適正化事業(適正化計画)の見直し
・居宅サービスについての保険者等の関与の在り方
財務省の方針を受け介護保険法も改正されるため、利用者負担の見直しが行われる可能性は高いでしょう。介護サービスに小規模の経営が多いことにも触れており、協働化を求める動きも出ているため、介護業界で働く人にも影響があると考えられます。
介護保険改正は3年ごと。今後の動きを注視しよう!
介護保険制度は高齢者数や介護ニーズの変化に対応するため、3年に1度改正されます。高齢者の増加や現役世代の減少により、介護保険料や自負担額は年々増加傾向です。2024年の改正でも利用者負担の見直しが行われると予想されます。介護業界にも影響を与える可能性があるため、今後の動向に注意しましょう。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。