失語症とは?原因や症状、種類やコミュニケーションのポイントを解説
著者: ゲートウェイ
更新日:2023/12/22
公開日:2023/04/21
「失語症とはどんな病気?」と詳しく知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。失語症は、大脳がなんらかの原因で損傷したことによって起こる、言葉の障害です。失語症にはいくつかの種類があります。ここでは、失語症の原因や症状、コミュニケーション方法について、わかりやすく解説していきます。
目次
失語症とは
失語症とは、大脳の損傷のため、使えていたはずの言語機能がうまく働かなくなることです。
失語症は、「話す」「聴く」「読む」「書く」といった言語機能に障害が起きる病気です。脳の損傷などにより、後天的に発症します。他者とのコミュニケーションが難しくなるだけでなく、うまくコミュニケーションができないことによる心理的な問題も生じる恐れもあります。具体的には、「他人の言うことが理解できない」「自分の思っているように話せない」「何が書いてあるのか理解できない」「字が書けない」といった状態になります。
失語症と似たような障害として構音障害や失声症などがありますが、このような障害との違いについて解説していきます。
失語症と類似障害の違い
失語症 | 言語機能に障害が起きる。声を出す機能には異常がない |
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構音障害 | 発話するための機能に障害が起きる。言葉の理解はできる |
失声症 | 心因性に起因するものが多い。脳と発話するための機能に異常はない |
認知症や記憶障害 | 記憶が脳に定着しなくなる疾患や障害 |
失語症に類似する障害には、構音障害や失声症があります。失語症は、声を出す機能そのものには異常がない点が特徴です。
一方構音障害は、話すために必要な口周りや舌などの筋肉に麻痺や異常が起こることで、発話が難しくなります。つまり、失語症とは異なり、言葉の理解や文章の組み立ては可能です。
一方失声症は、声を出す器官に異常はありませんが、声が出なくなる障害を指します。脳に異常はなく、言葉の意味は理解できるため、聴いたり書いたりすることが可能です。
失語症はまれに、認知症や記憶障害と誤解されるケースもあります。しかし記憶に問題がなく、覚えているけれど言葉が出てこない状態が失語症であるため、記憶そのものが障害される認知症や記憶障害とは異なります。
失語症の原因
失語症は、脳の損傷が原因です。具体的には下記のような病気や症状の後遺症として発症するケースがほとんどです。
・脳卒中:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血
・事故による頭部外傷
・脳腫瘍
・脳炎
脳が損傷を受けることで、言語中枢に障害が起こり失語症になります。主な原因を占める脳卒中は、中高年に起こりやすいため、失語症自体も中高年で発症するケースが多い傾向にあります。
事故などの外傷による失語症は、進行しないことがほとんどです。一方で、脳腫瘍など進行性のある病気の場合、病状が進行することで失語症も悪化する可能性があります。失語症を引き起こした疾患により、失語症の症状もさまざまです。
失語症の症状
失語症は、以下のような4つの面で症状が現れます。
・話す
・聴く
・読む
・書く
他者とコミュニケーションを図るために必要な話をしたり聴いたりする機能や、読み書きをする能力など、言葉に関するあらゆる面で症状が現れます。原因となる疾患やどの程度脳が損傷を受けているかで変わってくるため、個人差があるのが特徴です。
ここでは、前述した4つの面それぞれの症状について解説します。どのような症状が起こるのか知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
話す面での症状
・言葉がうまく出てこない
・言い間違える
・うまく発音できない
・相手の言うことを復唱できない
話す面での症状として現れやすいのは「言葉がうまく出てこない」ことです。失語症には色々な種類がありますが、うまく言葉が出ない症状は、どの種類の失語症にもみられます。そのほかにも「みかん」を「みとん」と言い間違ったり、発話の意味が通じなかったりすることがあります。言葉で表現する能力が失われることが原因です。
聴く面での症状
・相手の話が理解できない
・複雑な会話が理解できない
相手が話す言葉は聞こえますが、言葉の意味が理解できない症状です。話の内容が全く理解できないこともあれば、日常会話は理解できても複雑な会話や長文が理解できないなど、重症度に違いがあります。
読む面での症状
・音読できない
・読み違う(錯読)
・文字や文の意味が理解できない
・文字が読めない
似たような文字を読み違えたり、単語の音が読めなかったりするなど、さまざまな症状があります。読み違うケースには主に2通りの症状があります。
視覚性錯読 | 形が似た文字を読み間違えてしまう 【例】「自」を「百」と読み間違える |
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音韻性錯語 | 単語の読み方を間違えてしまう 【例】「消しゴム」を「けしもむ」と読み間違える |
目で読み取った情報を脳が理解する際に起きる障害なため、視覚的には問題がないケースがほとんどです。
書く面での症状
・書きたい文字が思い出せない
・文字が書けない
・書き間違う(錯書)
文字そのものを忘れてしまったり、書き間違ったりする症状が現れます。失語症のタイプにもよりますが、漢字は書けているのに、ひらがなが書けない場合があります。これは、漢字とひらがなの、脳での認識方法が異なるためです。漢字は文字そのものが意味を表すため「音」を覚えていなくても書けるケースがあります。一方で、ひらがなは読み方である「音」を理解する必要があります。このように、書く面でさまざまな症状が出るのが特徴です。
失語症の種類
失語症の4つのタイプ |
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・運動性失語(ブローカ失語) ・感覚性失語(ウェルニッケ失語) ・健忘失語 ・全失語 |
読み書きやコミュニケーションの面でさまざまな症状が起こる失語症ですが、さまざまな種類があります。ここでは、代表的な4つの失語症の特徴について解説します。
運動性失語(ブローカ失語)
運動性失語とは、言葉は理解できているのに、自分でうまく話せなくなるタイプです。脳の「ブローカ野」と呼ばれる部位の損傷が原因なため「ブローカ失語」と呼ばれることがあります。運動野に近いエリアにあるため、右半身麻痺を起こしているケースがほとんどです。
運動性失語では、言葉の意味は理解できますが、文章の組み立てが行えなくなります。そのため、話せるのに言い間違いが多かったり、単語や短文が多くぎこちない話し方になったりします。
感覚性失語(ウェルニッケ失語)
感覚性失語とは、話すより力よりも聴く能力が低下するタイプです。脳の「ウェルニッケ野」の損傷が原因で起こるため「ウェルニッケ失語」と呼ばれることがあります。相手の話を正しく認識できないため、スムーズに話していても会話の辻褄が合わなかったり、支離滅裂な会話になったりするのが特徴です。そのため、精神疾患や認知症などと間違われやすい傾向にあります。
健忘失語
健忘失語とは、物や人の名前が出てこなくなる状態を指します。
物の名称や名前が出てこないため、抽象的かつ回りくどい話し方になる点が特徴です。イメージしやすいように、例を挙げてみます。
好きな食べ物を「バナナ」と答えたいケース | |
---|---|
一般的な回答 | 「バナナです」 |
健忘失語の場合 | 「黄色」「甘い」「細い」 |
「バナナ」という名称が出てこないため、上記のように抽象的な表現をする傾向にあります。
全失語
全失語は、運動性失語と感覚性失語の合体版を指します。「話す」「聴く」「読む」「書く」といったすべての能力が失われる点が特徴で、失語症の中で最も重症度の高いタイプです。脳血管障害が原因であるケースがほとんどで、右半身麻痺を伴うことがあります。「うーうー」と意味をなさない、もしくは限られた単語だけを繰り返す状態となるため、周囲との意思疎通は難しい場合が多いでしょう。
失語症の人とのコミュニケーションのポイント
失語症は人によって、起こる症状や重症度がさまざまです。そのため、相手の症状を知った上で、失語症の方に合った適切なコミュニケーションを取ることが重要です。ここでは、失語症の方とコミュニケーションを図る上でのコツについてご説明します。
ゆっくり・はっきり話す
相手との目線を合わせてゆっくり、はっきりと話すことを心がけましょう。わかりやすい言葉や短い文で会話すると、さらにコミュニケーションを図りやすくなります。
また環境を意識することも大切です。騒がしい場所は聞き取りにくいため、会話に集中できる環境で話すことをおすすめします。失語症の方は、うなずいて理解している素振りを見せていても、しっかりと理解できていないことがあります。そのため、理解しているだろうから、いつものスピードでやり取りしても問題ないだろう、と安易に考えないよう気をつけましょう。
対等に接する
失語症の方は思考力は低下しておらず、物事の判断はできるため、通常の人と同じように対等に接することが大切です。わかりやすい言葉や短い文でコミュニケーションを取ることは重要です。一方で、意識しすぎるあまり、子どもに接するようなやり取りにならないよう気をつける必要があります。失語症があったとしても、尊敬すべき大人である点を理解して接しましょう。
相手の話を先回りしない
早く良くなってほしいからと、相手の話を先回りして言おうとせずに、ゆっくりとしたコミュニケーションを取る必要があります。場合によっては先回りして伝えてあげることも必要ですが、相手の意志を無視してしまうため、自尊心を傷つけてしまう恐れがあります。
ワンクッション置く時間を設けて、それでもコミュニケーションが難しそうであれば、わかりやすい会話に置き換えるなど工夫しましょう。
ジェスチャーや絵、写真などを使う
言葉や文字だけがコミュニケーションツールではないため、ジェスチャーや絵、写真などを用いてコミュニケーションするのもおすすめです。失語症の方が、言葉が出ずに戸惑っているケースでは、ジェスチャーを取り入れることで単語の意味を思い出すケースがあります。
例えば「雑誌を読みますか」と話しかけながらページを開いた雑誌を手渡すなどがあります。イメージしやすい行動を示しながら会話することで、相手も理解しやすくなるでしょう。
失語症の症状やタイプを理解して適切なコミュニケーションを
脳の損傷により起こる失語症は、話したり書いたりするなどコミュニケーションを図る上で、必要な機能が低下します。認知症などの疾患と間違うケースがありますが、記憶が失われているわけではありません。そのため、ゆっくり話したり、ジェスチャーを交えたりするなどの方法を取ることで、コミュニケーションを図ることが可能です。失語症のタイプや症状の種類を把握して、その方にあった適切な対応を心がけましょう。
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著者プロフィール
ゲートウェイ
異業種含め、人事採用担当として15年以上のキャリアを積んだ経歴を持つ40代男性。現在はソラストの介護採用スタッフとして活躍している。スタッフの負担軽減のため、IT導入や業務ルールの改善に強みを持つ。